有名私立中高一貫校をしのぐ高偏差値が必要
今年も2月3日に都立中高一貫校の適性検査が実施された。受検倍率は、一般枠募集の平均が5.61倍。前年度の5.65倍から0.04ポイント減少しているとはいえ、この高倍率は私立中学受験や高校受験の倍率の比ではない。
学校別の倍率は、高い順に白鴎6.82倍、大泉6.80倍、両国6.13倍、小石川5.95倍、三鷹5.77倍、桜修館5.49倍、南多摩5.19倍、富士4.93倍、立川国際4.74倍、武蔵4.23倍。前年より倍率が増加したのは、小石川、白鴎、大泉、南多摩、武蔵の5校。特に白鴎は0.77ポイントアップと倍率の増加幅が大きかった。
その後も総じて見れば、都内の公立中高一貫校は着実に大学進学実績を伸ばし、2017年の大学入試では、東大に、小石川から14人、武蔵と大泉から各6人、都内の公立中高一貫校から合計で40人もの合格者が出ている。
年々うなぎ上りで倍率が跳ね上がりそうなものであるが、実際にはそうはなっていない。無謀な「記念受検者」が減ったからだ。その分、受検者の本気度は上がっている。倍率は横ばいでも、難易度は上がる。公立中高一貫校が難関校化しているのだ。
白鴎ショック直前の2011年入試と2017年入試における四谷大塚の結果偏差値(合格確率80%)を比べると、公立中高一貫校の偏差値が軒並み上がっていることがわかる(図1)。
2017年の偏差値を見ると、小石川で男女ともに64。これは同日に入試を行う、慶應義塾中等部(男子)、神奈川御三家の浅野、人気女子校の鷗友などに匹敵する難易度だ。同様に武蔵で男子61/女子64、両国で男子60/女子62。私立中高一貫校受験でも難関校の部類に入る偏差値帯。
適性検査の問題は一般的な中学受験用の模試の問題傾向とはまったく違うため、四谷大塚の模試の偏差値は参考程度に見るべきだが、それでも公立中高一貫校が私立有名中高一貫校をしのぐほどに難関校化しているのがわかる。
都立中高一貫校対策には「教科書+100~200%」の知識が必要
どれくらい勉強すれば公立中高一貫校に合格できるのか。公立中高一貫校対策の通信講座「むぎっ子広場」の運営に関わる畠山一徳さんに聞いた。
「その答えは、公立中高一貫校にどれくらい本気で行きたいのかによって変わります。できる範囲で対策をして、ダメなら地元の中学校に行けばいいやと思っているのならば、むぎっ子広場の通信添削で問題形式に慣れておくだけで受けてみるのもいいでしょう。地頭の良い子であれば合格を勝ち取ることができます。毎年そういう児童が一定数います。しかし合格を強く望み少しでも確率を高めたいというのなら、適性検査対策だけでは不十分です。私立中学受験と同様の4教科型の勉強をして、基礎知識と基礎学力を強化しておいたほうがいい。具体的には地方の公立中高一貫校でも『小学校の教科書+20%』の知識が必要です」
適性検査は予備知識がなくてもじっくり考えればわかる問題だといわれているが、実際には45分間という制限時間の中で解かなければならない。知識が多いほうが有利に決まっているというのだ。
地方の公立中高一貫校の合格確率を高めるために必要なのが「教科書+20%」の知識だとした場合、私立中高一貫校合格を目指すために必要な知識はどれくらいだといえるのか。畠山さんの個人的な見解としてはこうだ。
「中堅校なら教科書+20%、上位校なら+100%、難関校なら+200%以上といったところでしょうか」
では、首都圏の公立中高一貫校はどうか。図1の偏差値表を参考にすると、東京都の公立中高一貫校は私立中高一貫校の上位校から難関校くらいに位置する。つまり本気で首都圏の公立中高一貫校対策をするならば、「教科書+100~200%」の知識が必要になる。
「首都圏の1都3県の公立中高一貫校の適性検査は全国的に見ても難解です。ある程度私立中学受験用の勉強をしておかないと太刀打ちできません。問題文の会話が長いだけで、結局は私立中学入試に頻出の特殊算の考え方が問われている場合がありますから。一方、地方は難易度は低いものの、形式としてはより露骨に私立的な問題を出す傾向があります。たとえば沖縄の適性検査は、私立中学入試問題そのものです」
いずれにしても、従来の私立中学受験用の4教科型の勉強はしておいたほうが有利だということだ。
都立中高一貫校受検で圧倒的な合格実績を誇る学習塾enaの池田清一さんは次のように言う。
「enaで鍛えていれば、適性検査型入試に限らず、一般入試で受けても上位の私立中高一貫校に合格できます。四谷大塚の偏差値で60くらいまでなら通せます」
都立の小石川や武蔵は四谷大塚の偏差値表でも60以上の位置にあるのだから、いわれてみれば当然だ。むぎっ子広場の畠山さんの「教科書+100~200%」の感覚とも一致する。首都圏の公立中高一貫校に本気で対策をするのなら、私立中高一貫校の上位校くらいまでを受けても合格できる可能性があるということだ。逆にいえば、それくらいにしっかりと対策しないと、公立中高一貫校に合格できないということでもある。
(文=おおたとしまさ/教育ジャーナリスト)
※後編に続く