例年、1月中旬に大学入試センター試験が実施されることから、年明けからが受験シーズンとのイメージはある。だが、実際には受験の季節はもう始まっている。私立中学の入試は、年末から行われているのだ。中学受験は大学や高校に先駆けて、早や本番に突入していることになる。
中学受験が当事者の児童ばかりではなく、保護者にも心身の大きな負荷になるのは、親子ともに初めての受験になるケースが多いからだろう。実際に、子供に中学受験をさせた経験のある保護者は「気がかりで、正月気分ではなかった」とも言う。当事者はもちろん、周辺の苦労がしのばれるところだ。
そこで、関連する書籍を記した際に、学習塾講師や進学校の元教師など教育関係者、さらには保護者の方々から得た話に基づいて、受験への心構えや学校選びに際して活用できる、あるいは幾分かでも心が軽くなる、5つのポイントを記してみたい。
1.現在の進学力をしっかりと把握する
ほとんどの中学受験生と保護者が望むのは、そこを足掛かりに難関大学や有名大学に進学することだろう。ただ進学校の序列は年代によって変化しているので、現状を正確に把握することが必要になる。
たとえば首都圏の最近の趨勢としては、名門都立校の復活と公立中高一貫校の台頭、これに蚕食された私立進学校の凋落があげられる。特に現在の保護者は私立進学校の全盛時代に育ったためか「昔の名前、実績をそのまま思い描いている傾向がある」(学習塾講師)ので、注意したいところだ。
2.進学者数だけではなく、進学率にも気を配る
自称、他称を含めて進学校の最大の売り物は、難関大学の合格実績だ。ホームページはもとより広告でも、合格者数を大々的に謳っているところは多い。なるほど数は事実であるとしても、もうひとつ重要であるのは母体になる学生数の多寡だろう。特に国公立校と比較して、運営上の制約の少ない私立校の場合、1学年で数百人以上と、他校の倍以上の学生を抱える大規模校もある。このようなマンモス校の合格率を調べてみると、学生数が半分以下の公立進学校や、小規模の私立進学校に及ばないケースはある。
3.受験メディアには私立校贔屓の傾向がある
いくつかの受験関連メディアから取材を受けた経験からも、その印象を持った。全般として私立校を好意的なアングルで捉える特集は目立ち、記事として割かれる分量も公立校と比較すると多い。広告の絡みや、日頃の付き合いの深浅が関係しているのかもしれない。いずれにせよ、専門メディアの情報は一定のバイアスがかかっていることに留意をして、鵜呑みにすることは止めた方が良いだろう。
一般に私立校は保護者が懸念するいじめや不祥事が少ない、との見方はあるようだが、「私立校は問題を起こしそうな生徒を、退学や高校への進学不可などで早めに排除してしまう」(中高一貫校に子供を通わせる保護者)とも聞く。
4.牛後よりも鶏口の考え方を
「鶏口となるも牛後となるなかれ、は学校選びにも使えます」と教えてくれたのは、いくつかの高校で教師を務めた方だ。この場合は、トップ校の下位で燻るよりも、二番手校の上位にいるほうが、むしろ良い結果につながりやすいという意味になる。
「トップ校の上位層には、学究の道に進むために生まれて来たようなタイプが結構いる。このために下位の生徒は必要以上に劣等感を抱くようになり、受験の成否の決め手になる自信を喪失してしまう。結果として、二番手校の上位でも合格が可能な大学にも入れなくなる」(元高校教師)
5.中学受験は始まりであって結果ではない
合格組は狂喜し、不本意組は青菜に塩。中学受験の終わる2月初旬まで毎年繰り広げられる風景だが、進学塾講師はどこか違和感を覚えるそうだ。「スタートとゴールを取り違えているように思う。中学受験は始まりであって、その先を保証するものではない」(同講師)ためだ。たとえ全国でトップクラスの進学校であっても、最難関である東大や京大、そして国公立大学の医学部に合格できるのは3割から4割と推定されている。
「受験で分かるのはあくまで12歳時点での学力であり、きわめて流動的なもの。不本意組にしても、今後の精進次第で逆転するのは十二分に可能です」(同)
(文=島野清志/評論家)