増加した訪日外国人観光客が各地の古き良き“飲み屋街”に足を運び、マナーを守らずに大騒ぎしていることで、街のムードが最悪になっているという。なかでも「荒れている」といわれるのが、新宿・歌舞伎町に位置する「新宿ゴールデン街」だ。路地に所狭しと居酒屋やバーが立ち並び、昭和の空気を残す飲み屋街は今、外国人観光客が押し寄せるスポットとなり、さまざまな問題が勃発している。
近年の「訪日ブーム」は衰えることなく、インバウンド需要はますます高まっている。日本政府観光局(JNTO)が発表した2018年上半期の推計値によると、訪日外国人数は前年同期比15.6%増の1589万9000人で、6年連続で過去最高を更新した。夏ごろに起きた台風などの自然災害などによって一時的に減少傾向にあるというが、18年通年では累計3000万人を超えて過去最高を記録している。
昨今の訪日外国人は定番の観光スポットにはあまり興味がなく、よりディープな場所をめぐる傾向があるという。夜になると新宿や渋谷の歓楽街に繰り出すことも多く、そこで“常識はずれ”の乱痴気騒ぎを起こして問題になっているのだ。
ゴールデン街で起きている“異常事態”
「東洋一の歓楽街」と呼ばれる新宿・歌舞伎町と、世界でも有数のLGBT(性的少数者)の街として知られる新宿2丁目に挟まれた場所にあるゴールデン街では、特に外国人客が増えているという。戦時中の闇市に端を発し、時代とともに飲み屋街に変貌していったゴールデン街は、現在もレトロな町並みが残っており、新宿界隈でも飲み慣れた“通”が集うエリアだ。しかし、最近は外国人観光客が押し寄せたことで、その独特の雰囲気が一変してしまっているという。
「以前から外国人は多かったけど、ここ数年で一気に増えた。最近はガイドブック片手の観光客というよりも、最初から飲んで騒ぐ目的で来てるようなのが多いね」と語るのは、ゴールデン街に店を構える店主のAさん。街としては客が来ることに対して文句を言えないということで、「匿名にしてほしい」とのことだ。
「奇声をあげたり肩組んで歌いだしたり……。ゴールデン街は静かな雰囲気の店も多いから、昔からの常連さんたちのなかには『いいかげんにしてほしい』と苦言を呈する人もいるよ。あまりのマナーの悪さに、外国人の入店を禁止しているところもある」(Aさん)
新宿区役所側から向かってゴールデン街の入り口にあるバーには、日が暮れた頃から早朝になるまで外国人客が詰めかけている。店内に入れない客はグラスを片手に店前の遊歩道にあふれかえり、大声で談笑。店内にはカラオケが設置してあるため、外でもビートルズなどのナンバーを大合唱しているのだ。
「あそこがいつも外国人だらけで騒いでいるので、ゆっくり飲みたい日本人のお客さんが街の中まで入らずに帰っちゃうんだよ。女性客に声かけてナンパする輩も多いし、ゴミはそのへんに捨てるし、正直言ってゴールデン街のイメージを下げてるよね」(同)
このような外国人客のほとんどは欧米系で、すぐ近くの歌舞伎町に大挙して押しかけているアジア系観光客は皆無だという。これは、アジア系観光客のほとんどがツアーの団体旅行であるのに対し、欧米人の多くは自由な個人旅行であるという事情が大きいだろう。さらに、欧米人のなかには「お通し」など独特のシステムがある日本の居酒屋に馴染めない人も多く、そのためキャッシュオンで手軽に飲めるスタイルの店が多いゴールデン街に集まってきているのだ。
「飲んで騒ぐのはいいけど、彼らはルールを守らない。コンビニで缶チューハイを買ってきて飲んでる輩も多いよ。店から追い出された奴らは、開き直ってコンビニ店の前で座り込んで飲んでいる。周辺のエリアまで治安が悪くなってる気がするよ」(同)
隣の新宿2丁目でも、同じような傾向が見られる。メインストリートの仲通りにはオープンスタイルの店舗がいくつかあり、週末ともなると大勢の外国人客が集う。さらには店内外に関係なく騒ぐ客も多く、駐車場やコンビニの前で酒を片手に談笑している光景もよく見られる。
外国人観光客は日本の“夜”に不満?
日本交通公社の「アジア・欧米豪 訪日外国人旅行者の意向調査(2018年度版)」によると、訪日経験者に日本旅行で不満だった点について聞くと、言語の壁や旅行料金の高さなどに続き、ナイトライフ体験への不満が多かったという。
限られた時間で最大限の観光を楽しみたい訪日外国人が歓楽街に集い、「旅の恥はかき捨て」とばかりに大騒ぎしている構図が見て取れる。
「ゴールデン街では、店も客も高齢化している傾向があった。最近の若者は酒を飲み歩いたりしないからね(笑)。その穴を外国人観光客が埋めてくれているのは事実。ただ、今はいいけど、そのうち外国人たちがいなくなったら、より寂れてしまうだけだと思うけどね……」(同)
さまざまな問題はあるが、店にとって背に腹はかえられない事情もあるようだ。ただ、このままいけば訪日外国人数がひとつのピークを迎えると予測される2020年の東京オリンピックの頃には、街の雰囲気が一変してしまうかもしれない。
(文=ジョージ山田/清談社)