リクルート住まいカンパニーが毎年発表している「住みたい街(駅)ランキング(関東版)」。2018年版は「横浜」が初の1位に輝き、話題を呼んだ。
一方、同時に発表されている「穴場だと思う街(駅)ランキング」では、今年も“あの街”が圧倒的な強さを見せた。15年から4年連続で1位となった「北千住」だ。北千住は、前述の「住みたい街ランキング」でも23位と大健闘している。
しかし、北千住は本当に「穴場」なのだろうか。昔からガラの悪いイメージが強いが、それは今も大きく変わっていない。その上、不動産業界関係者は「すでに、北千住の『穴場』としてのピークは終わっている」と指摘する。
昼間から酔っぱらいがウロウロ…
東京都足立区に位置する北千住駅は、埼玉県や千葉県、茨城県から都心に足を伸ばす際の玄関口となるターミナル機能を持つ。JR常磐線、東京メトロ千代田線、東京メトロ日比谷線、東武線、つくばエクスプレスなど複数の路線が利用可能で、駅前には、駅直結のルミネやマルイ、さらに多数の飲食店が軒を連ねる商店街もある。
恵比寿や吉祥寺のようなブランド力こそないが、交通の利便性、商業施設の充実度、そして家賃相場が割安といったイメージが、近年の「穴場」としての評価につながっているのだ。
とはいえ、こうしたプラスの面だけが北千住のすべてではない。まず、「治安の悪さ」というマイナスの側面がある。治安の良し悪しを計る目安のひとつに刑法犯認知件数があるが、警察庁によると、足立区は06年から09年まで4年連続で東京23区のワースト1位となっている。16年は4位まで順位を下げたが、17年(3~11月)は再び23区最多を記録した。
実際、北千住駅から徒歩10分ほどの物件に2年間住んでいたアパレル企業勤務のAさん(27歳、女性)は、げんなりした表情でこう話す。
「確かに北千住は便利ですが、駅前の雰囲気は最悪です。飲み屋が集中しているので、とにかく酔っぱらいが多く、仕事帰りに地下鉄から地上に出ると、酔っぱらいの集団に進路を邪魔されることもありました。また、夜中に公園で奇声をあげている人や公園の花壇で寝ている人などもよく見かけるし、道が吐瀉物で汚れていることも珍しくありません」(Aさん)
これは夜間に限ったことではない。北千住では明るいうちから営業している居酒屋も多いため、昼間から酔っぱらいが街をウロウロしていることもあるという。
「しかも、安い居酒屋ばかりなので周辺地域から大学生などの若者も飲みに集まってきて、その騒々しさは想像以上。駅前に設けられた喫煙スペースでは、常にたくさんの人がたばこを吸っていて、そのにおいも嫌でした。また、『きたろーど1010』という駅前の商店街は道が狭く、自転車で無理矢理通ろうとする人も多い。そのため、落ち着いて買い物もできないんです」(同)
都心へのアクセスの良さから北千住を選んだAさんだったが、実際に住んでみて感じたのは、利便性の高さよりも想像以上の治安の悪さだったという。
むしろ綾瀬や亀有のほうが住みやすい?
また、今後予想されるのが家賃相場の上昇だ。不動産業界関係者のB氏は「家賃相場で見ても、北千住はもはや穴場とはいえません」と語る。
ライフルホームズの「家賃相場情報」によると、北千住のワンルームマンションの家賃相場は7.14万円と格段に安いわけではない(9月3日現在)。特に、穴場といわれるようになってから開発されたマンションは新築や築浅の物件が多く、家賃の設定は高めとなる。これが、地域の家賃相場を押し上げる一因になっているという。
「不動産データバンクの東京カンテイが集計した分譲マンションの価格維持率(04~14年)を見ると、北千住駅は首都圏で上位50に入っており、当然、賃貸市場の価格上昇率も上位になるものと考えられます。現在も駅の西口側に新築マンションの建設計画が続いており、東口の商業地域も開発が進んでいくでしょう。そうなれば、今後も賃料は上昇傾向が予想されるため、北千住の特色でもあった割安感はどんどん薄くなっていくはずです」(B氏)
最近は「職住近接」が不動産のトレンドとなっている。それを踏まえると、北千住の利便性は今後も人気を集め、同時に家賃相場も上昇すると考えられる。すでに、北千住駅の西口側は、つくばエクスプレスの開業に伴ってファミリーマンションの建設が加速している。
そして、街の売りとなっている利便性にも落とし穴がある。確かに北千住はターミナル駅としての機能を持ち、都心へのアクセスも便利かもしれない。しかし、その半面、大手町方面に向かう路線の混雑率は常に高く、過去には常磐線快速の松戸→北千住の混雑率が270%を超えたこともあった。
最近は改善されてきたが、今後も人口が増えていけば、武蔵小杉などと同様に乗車率や混雑率がさらに上昇する可能性もある。
B氏によると、「穴場」と呼ばれる地域は開発によって大きく変わっていく場所だという。「住みたい街ランキング」の上位の街は、ブランド化しているか、同じ店が立ち並ぶ凡庸なショッピングモールのような街になっているかのどちらかで、北千住は後者の典型のような街になりつつあるようだ。
「北千住が穴場だった時期はとっくに終わっていて、すでに家賃相場も地域の特色も平均化された、おもしろくない街になりつつあります。利便性に対するコスパは周辺地域より優れていますが、主に常磐線で生活するなら、むしろ綾瀬や亀有、金町、松戸のほうが実用的な店は揃っている。マルイとルミネの利用頻度が低いなら、それらの街のほうが暮らしやすいかもしれません」(同)
本当に「穴場の街」を探すには?
そもそも、「穴場だと思う街ランキング」の「穴場」とは、「一般的にあまり知られていないが、実は便利で住みやすい街」を指す。しかし、北千住はすでに4年連続で1位に選ばれており、言い換えれば広く認知されている。その時点で、もはや穴場とはいえないのだ。
「それまで注目されなかった街が『穴場』と呼ばれるようになるのは、再開発が呼び水となる場合が多い。しかし、再開発される街は、その計画段階で不動産価格が上昇し始めます。つまり、本当に穴場を探すなら、まだ開発されていない街をチェックしなければならないわけです。その意味でも、北千住の穴場としてのピークは過ぎていると考えていいでしょう」(同)
「治安が悪い」「ヤンキーが多い」などの悪評を覆し、穴場の街として人気を高めてきた北千住。その“穴場感”がすでに失われているとすると、今後、北千住の価値はどのように変わっていくのだろうか。
(文=ジョージ山田/清談社)