このときの打ち上げは同時打ち上げ衛星数の多さもさることながら、ロケットエンジン部分のブースターが3回目の再利用であることも新記録です。宇宙ビジネスにおいてロケット打ち上げのコストの高さは最大の課題で、日本の主力ロケットH-2A型は1回きりの使い捨てのため100億円以上かかります。スペースXはコスト削減のためにロケットブースターの繰り返し利用を研究し、その技術をすでに商用ロケットで実用化しています。
なお、今回の打ち上げで相乗りしたのは韓国、フランス、カザフスタンなど17カ国の官民や大学などの超小型衛星15基と小型人工衛星のキューブサット49基です。超小型衛星の質量は1基30kg程度でした。打ち上げは複数の衛星を搭載したロケットの打ち上げを専門とするアメリカのスペースフライトが実施しており、今や宇宙産業は民間企業だけでロケット・人工衛星の開発や打ち上げを分業できるほどに成長しています。
インド、19年中に月着陸船を打ち上げへ
インドは19年中に月着陸船を打ち上げる計画を立てているほど、宇宙開発に熱心な国のひとつです。1969年以来、インド唯一の宇宙機関であるインド宇宙研究機関(ISRO)が主導し、日本のケースと同じような国が中心となる態勢で推進されています。
そのインドは一昨年、104基もの小型衛星を同時に打ち上げて世界最多記録を更新しました。このときの打ち上げはメイン衛星と超小型衛星の相乗りで、質量714kgの地球観測用衛星と小型衛星104基が積まれていました。そのうち96基はアメリカの宇宙開発企業のもので、インドのものは3つ、残りはイスラエル、カザフスタン、オランダ、スイス、アラブ首長国連邦の企業の衛星でした。
このように、超小型衛星は相乗り数が急速に増加しています。これは打ち上げのチャンスが加速度的に増加し、さらに打ち上げ委託費用も急速に低減していることを意味しています。もともと宇宙開発には縁のなかった企業が宇宙空間で自社製品の品質試験を実施するケースも急増しており、地球上で使用されているあらゆる製品が宇宙空間でも使用される時代を見据えて、多くの企業が超小型衛星の自社開発に動き始めています。
(文=中西貴之/宇部興産株式会社 品質統括部)
【参考資料】
『革新的衛星技術実証1号機/イプシロンロケット4号機』(ファン!ファン!JAXA!)
『SpaceX Rocket Makes Historic 3rd Launch Into Space with 64 Satellites On Board』(SPACE.com)
『PSLV-C37 Successfully Launches 104 Satellites in a Single Flight』(ISRO)
『宇宙と地球を視る人工衛星100 スプートニク1号からひまわり、ハッブル、WMAP、スターダスト、はやぶさ、みちびきまで』 地球の軌道上には、世界各国から打ち上げられた人工衛星が周回し、私たちの生活に必要なデータや、宇宙の謎の解明に務めています。本書は、いまや人類の未来に欠かせない存在となったこれら人工衛星について、歴史から各機種の役割、ミッション状況などを解説したものです。