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中西貴之「化学に恋するアピシウス」

人類初の宇宙ホテル開業…12日間で10億円、絶景の地球を堪能、ネットも利用可

文=中西貴之/宇部興産株式会社 環境安全部製品安全グループ グループリーダー

 日本では、図書館がホテルになったような宿泊施設やロボットがすべての接客をするホテルが話題ですが、海外に目を向けると、ついに宇宙空間に民間のホテルが開業する時代が来ています。

「人類初の民間宇宙ホテルを開業する」と発表したのは、アメリカのテキサス州ヒューストンのオライオン・スパンという企業です。同社は2021年までに宇宙ホテル「オーロラ・ステーション」を地球を周回する低軌道に打ち上げ、22年から営業を開始する計画を発表しました。

 気になる宿泊料金は、往復交通費や食事代などが含まれた12日間滞在パックでひとり約10億円です。開業から4カ月分の予約受付が4月5日に開始されましたが、約1000万円という予約金の安さもあって富裕層の間で話題となり、72時間以内に完売しました。

人類初の宇宙ホテル開業…12日間で10億円、絶景の地球を堪能、ネットも利用可の画像1地球を背景に浮かぶ宇宙ホテル「オーロラ・ステーション」(オライオン・スパン社の公式サイトより)

 1961年に人類で初めて宇宙空間に到達したユーリイ・ガガーリン以来、多くの人々が地球を離れましたが、そのほとんどは肉体的な適性検査に合格した上で、さらに何年もの特殊な訓練を積んだ宇宙飛行士でした。

 2011年に国際宇宙ステーションが完成したことによって、人類は狭い空間に閉じ込められ耐え続けるだけの宇宙飛行から一歩前進し、快適な居住空間や地上と大差のない食事を手に入れました。しかし、宇宙観光目的で国際宇宙ステーションを訪問した民間人はわずか2名にとどまっており、その費用も20~30億円超という高額でした。

 一方で、宇宙を「ビッグビジネスが眠る広大なフロンティア」と考え、国際宇宙ステーションの軌道と同じ「LEO(地球低軌道)」の商業利用を研究する企業が相次いで現れています。LEOは地球を回る低軌道のため移動コストが安く、地球が間近でよく見えるため観光資源としても優れています。また、近年のロケット打ち上げ請負価格の低下によって、国際宇宙ステーションの3分の1の10億円程度での宇宙滞在が可能になりつつあります。

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 オーロラ・ステーションのLEOは上空320km。国際宇宙ステーションの軌道よりも80km低く、90分間で地球を一周します。建造中のホテルは全長13.3m、全幅4.3mという規模で、大型観光バスの1.5倍くらいの横幅をイメージするといいでしょう。そこに2人用のスイートルームが2部屋設けられ、スタッフが2名滞在します。

 多数の窓を備えた居住空間からは、地球の景色も満天の夜空も、とてもよく見えます。また、外部に設置された4Kカメラが望遠レンズで地上の風景を映し出し、それはまるで箱庭を見ているかのようです。さらに、高速インターネット回線が設置されており、地上と同じように家族や友人とコミュニケーションを取ることができるほか、ホテル滞在の様子をネットにアップすることもできます。料理は一流レストランのシェフによる宇宙空間用にアレンジしたものが提供されるという、まさに至れり尽くせりの待遇です。

中西貴之/宇部興産株式会社 品質保証部

中西貴之/宇部興産株式会社 品質保証部

宇部興産品質保証部に勤務するかたわら、サイエンスコミュニケーターとしてさまざまな科学現象についてわかりやすく解説

『宇宙と地球を視る人工衛星100 スプートニク1号からひまわり、ハッブル、WMAP、スターダスト、はやぶさ、みちびきまで』 地球の軌道上には、世界各国から打ち上げられた人工衛星が周回し、私たちの生活に必要なデータや、宇宙の謎の解明に務めています。本書は、いまや人類の未来に欠かせない存在となったこれら人工衛星について、歴史から各機種の役割、ミッション状況などを解説したものです。 amazon_associate_logo.jpg

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