広告費を業種別に見ると、2017年度、国内で食品、飲料に次いで広告費を多く使っているのが化粧品業界です(※1)。同年度に限る話ではなく、広告業界にとって“お得意様”の1、2位を化粧品(トイレタリー含む)業界と食品業界が競う構造が続いています。
大手化粧品会社2社について調べてみると、売上高のおよそ25%に相当する多額の資金が広告費(販促費を含む)に使われていると報告されています(※2)。広告費は各社の有価証券報告書などを詳細に調べなければなりませんが、売上高なら簡単にわかります。大手になると売上1兆円を超えることもあり、企業や業種展開によっても異なりますが、ざっくりと考えると売上の4分の1の金額が広告費に使われている可能性があります。
つまり、消費者が「肌に良い成分を」と化粧品購入のために払った金額のうち実に25%程度が、広告費として使われているイメージになります(あくまでメーカー側の売上なので、厳密ではありませんが)。製品価格のほとんどは高級成分の分だと思い込んでいる方もおられるでしょうが、皆さんが支払う金額のうち、大部分が広告ときれいなパッケージ容器のためのものなのです。その顕著な商品が「乳液」です。
乳液はほとんど水、高く売れるのは広告の力?
さて、女性の皆さんは毎日家を出る前にメイクをしますが、顔を洗って次に使うのは乳液だと思います。乳液は1970年代頃に登場し、80年代頃から広く普及しました。化粧品のなかでは非常に新しい製品であり、そして実は人間の長い歴史のなかで使わなくても不都合なく、つまり私たちにとっては必要ない商品だということは、あまり知られていません。
乳液には肌に役立つ油分が少ないうえ、製造する際に合成界面活性剤の配合に頼らざるを得ないため、私どもの研究所では美容科学の見地からは不要な製品だと考えていますが、この使わなくても困らない乳液という製品が、コンビニエンスストアでも必ず売られているのが日本です。個人的にはコンビニにコピー用紙が売っておらず大変困った経験がありますが、女性にとってはコピー用紙よりも緊急必要性の高い「生活必需品」とされているのです。
乳液は、ベーシックな製法でつくられた場合、大抵85~90%程度が水で、肌のために役立つものの原価の高い油分は、たった1割程度しか配合されていません。また、製造に高い技術が必要なものでもありません。こうした商品を私たちは必要不可欠なものと“思い込んで”いて、“生活必需品”と考えて購入しているのです。
乳液で乾燥は防げない
では、乳液はなぜ必要だと考えられているのでしょうか。
「私は乾燥肌だから乳液は欠かせない」という声もよく聞きますが、本当なのでしょうか。そもそも、なぜメイクをする前には乳液をつけるものだと、私たちは思い込んでいるのでしょうか。
皮膚は体を外の刺激物や毒物から守るという重要な役割をしていますが、この肌としての守る機能(バリア機能)が弱体化すると、乾燥や敏感肌といったトラブルが生じます。そのバリア機能の最表面で活躍しているのが「皮脂」という油です。成分の100%が油なわけではなく、油が主体でほんの少し水が含まれており、人の皮膚にとって理想的なクリームなのです。
本当に必要なのは水ではなく油
うるおいが枯渇した肌に必要なのは、「保湿」の「湿」という字からイメージされやすい「水分」ではありません。お風呂に入れば入るほど、水仕事をすればするほど、お肌は潤うのでしょうか。違いますよね。こうした悲鳴を上げている肌は皮脂が不足しており、補充すべきは水ではなく油分なのです。ですから、乾燥を防ぐには水が主体の乳液では力不足です。
もうお気づきですね。お察しのように、メーカー側からすると、乳液は原価があまりかからないので、低コスト・高利益率の両方をもたらしてくれ、どんどん売れてほしい。広告費をかけてでも押し売りをしたくなる商品です。でも、その商品が乾燥を防ぐのに適しているわけではないのです。
化粧品を買うために払うお金で、洗脳されていませんか?
本来必要のない商品を、あたかも生活必需品であるかのように語りかけ続ける広告。最初にお話ししたように、それは商品価格の25%を使ってつくられているのです。日本中でみんなが当然のことと思い込んで毎朝せっせと乳液を使っているなんて、こうしてよく考えてみると、ちょっとオカシなことだと思いませんか。
「でも、化粧水もほとんど水ではないか」「やっぱり化粧水も不要なもののはず」とおっしゃる方が出てきそうです。化粧水は、乾燥を和らげることが目的の製品ではありません。次回は化粧水についてお話ししたいと思います。
(文=小澤貴子/東京美容科学研究所)
【注釈】
※1)株式会社 電通 ニュースレター 2018年2月22日
※2)パイルズガレージ編集部、および各社の有価証券報告書より