タレントの堀ちえみさん(52歳)が、2月に舌がんの手術を受け、その後さらに食道がんが発見されて4月に再手術を受けたとの報告に、ショックを受けた人も多いでしょう。
がんという病気の手ごわさを思い知らされた感がありますが、舌や歯肉、頬の粘膜などにできる口腔がん、そして食道がんと関係のある食品があります。それは「ガム」です。
各食品メーカーから、さまざまなガムが売り出されていますが、市販のガムには必ずガムベースという添加物が使われています。
ガムベースは、ガムを製造するうえでなくてはならないものです。ガムベースに甘味料や香料などを混ぜ合わせたものがガムであり、噛むことによって甘味料や香料などが溶けだしてガムの味わいが出るのです。
ガムベースは12種類以上ありますが、日本チューインガム協会のHPによると、主に使われているのは、植物性樹脂、酢酸ビニル樹脂、エステルガム、ポリイソブチレン、炭酸カルシウムです。
これらを組み合わせて、独特の噛みごたえのあるガムがつくられているのですが、これらのガムベースのなかに、口腔がんや食道がんと密接に関係しているものがあります。それは、酢酸ビニル樹脂です。
酢酸ビニル樹脂は、ドイツで1910年代に開発された合成樹脂で、接着剤や塗料として使われてきました。そして、さらにガムベースとしても使われるようになったのです。日本チューインガム協会のHPでは、「この樹脂は、軟化して快い噛み心地をもつガムベースの原料」とあります。
しかし、酢酸ビニル樹脂には、発がん性物質が含まれている可能性が高いのです。
この樹脂は、原料となる酢酸ビニルをいくつも結合させて高分子化したものです。ただし、一般的に合成樹脂についていえることなのですが、原料が結合しないで一部がそのまま残っていることがあるのです。つまり、酢酸ビニル樹脂には、結合しなかった酢酸ビニルが残留している可能性があるのです。
実はこの酢酸ビニルに発がん性があります。旧労働省は日本バイオアッセイ研究センターに酢酸ビニルの発がん性実験を委託し、同センターでは、ラットとマウスを使って、酢酸ビニルを飲水に混ぜて2年間自由に飲ませる実験を行いました。
その結果、ラットではオスに口腔の扁平上皮がんと扁平上皮乳頭腫、メスに口腔と食道の扁平上皮がんの発生が認められました。
また、マウスではオスとメスで口腔と前胃に扁平上皮がんと扁平上皮乳頭腫、食道と喉頭に扁平上皮がん、メスの食道に扁平上皮乳頭腫が認められました。
つまり、酢酸ビニルは、口腔がんや食道がんなどを発生させる恐れがあるのです。
酢酸ビニル、5ppm未満であれば合法
旧厚生省は1997年8月、「添加物たる酢酸ビニル樹脂中の酢酸ビニル単量体の分析法について」という通知を、生活衛生局・食品化学課長名で各都道府県や政令指定都市などに出しました。
これは、酢酸ビニル樹脂中の酢酸ビニルの測定法を示したものですが、この通知の中で、「当該分析法により検出限界である5マイクログラム/グラム試料以上の酢酸ビニル単量体が検出された場合は、食品衛生法第四条に違反するものとして取り扱って差し支えない」としました。
「酢酸ビニル単量体」とは、酢酸ビニルのことです。すなわち、添加物として使われている酢酸ビニル樹脂中に酢酸ビニルが5マイクログラム/グラム(5ppm)以上残留していた場合、それは食品衛生法に違反しているということなのです。
そうした酢酸ビニル樹脂をガムベースに使っているガムは違反品であり、販売できないのです。しかし、逆にいうと、酢酸ビニルが5ppm未満であれば、食品衛生法に違反しないということにもなります。
ですから、含まれる酢酸ビニルが5ppm未満である酢酸ビニル樹脂は、ガムベースとして使えます。したがって、発がん性のある酢酸ビニルを含む酢酸ビニル樹脂が市販のガムに使われている可能性があるのです。
つまり、市販のガムを噛んでいると、ガムベースとして使われている酢酸ビニル樹脂から酢酸ビニルが溶けだして、舌や歯茎などの口腔、食道、喉頭などに作用し、それらの細胞をがん化させる可能性があるということです。
ガムは、どうしても食べなければならないというものではありません。できるだけ食べないようにしたほうが賢明といえるでしょう。
(文=渡辺雄二/科学ジャーナリスト)