団塊の世代(1947〜49年頃に生まれた世代)が65歳以上となる今年、認知症はますます身近な病気になるといえます。
加齢によるもの忘れは、体験の一部を忘れてしまいますが、ヒントを与えられると思い出せるなど、日常生活には支障のないものです。一方、認知症によるもの忘れは、体験の全体を忘れてしまいヒントを与えられても思い出せないなど、日常生活に支障をきたすものとなります。
例えば、加齢によるもの忘れは「朝ごはんに何を食べたか思い出せない」というものですが、認知症の場合は「朝ごはんを食べたこと自体」を忘れてしまうのです。
認知症の中で最も多いとされるのが、アルツハイマー病です。アルツハイマー病は、記憶と関係が深い海馬という脳の一部と、その周辺の萎縮が早期から見られます。必ず表れる症状として、もの忘れ、判断力の低下など、中核症状と呼ばれるものがありますが、現在はその症状の進行を遅らせる薬による治療が主流となっています。
●服用を中止すると、一気に悪化の危険
いくつかある薬の中で最も多く処方されているのは、エーザイの「アリセプト」です。アリセプトは3mgから服用を開始し、1〜2週間で5mgへ増量します。3mgでは基本的には効果はなく、吐き気や軟便などの消化器症状の副作用に慣れるための服用となります。さらに症状が進行した場合、10mgの服用へと移行していきます。アリセプトは服用開始後、効果がみられるまで3カ月ほどかかるといわれています。
あくまでも、認知機能を改善するものではなく、症状の進行を遅らせるものです。
アリセプト5mgの薬価は356円で1日1回1錠、保険も適用されるため月額数千円とはいえ、毎日、しかも将来にわたって服用し続けなければならないことを考えると、経済的負担は決して軽いとはいえない価格です。「なかなか効果を感じられない」「お金がかかる」といったことから、ご家族による服用中止というケースも少なくありません。しかし、6週間服用を中止すると、進行を遅らせていた症状が、何も治療しない場合の状態へと一気に悪化してしまうことがあります。素人判断で服用を中止することは取り返しのつかないことになりかねません。アリセプトはジェネリックも発売されており、薬価は7割ほどになるので、そちらを利用すれば経済的負担は軽減できます。
病気や健康状態を判断する際に、高血圧の場合は血圧を130/85以下に、糖尿病はHbA1c(ヘモグロビン・エイワンシー)を6.5未満になど、基準となる数値がありますが、認知症は数字で簡単に表せない上に、一人ひとり表れる症状も異なります。
認知症患者にとってよかれと思ってしたことが、かえってプライドを傷付けてしまい怒らせてしまうこともあります。介護する家族は、何が正解なのかわからず、ストレスをためていってしまうことも多くあるといいます。
高齢者が増加していく社会にあって、介護保険制度や、相談窓口、サービスを利用し、社会全体で認知症患者とその家族を支えていく取り組みをさらに進めていく必要があります。団塊の世代が後期高齢者となることによる種々の懸念が取りざたされている「2025年問題」への対策としても、特に重要な課題のひとつといえるでしょう。
(文=ピカケ/薬剤師)