YouTubeは、小学生など低年齢の子供に特に人気が高いことでよく知られる。将来の夢としてYouTuberを挙げるなど、YouTuberに憧れる小学生も少なくない状態だ。
米誌「フォーブス」の2019年YouTuber年収ランキングによると、おもちゃで遊ぶ動画などを投稿するチャンネル「Ryan’s World」を運営するライアン・ケイジくん(8歳)がトップ。2019年の視聴者数は2290万人で、年収は前年より400万ドル増の2600万ドル(約28億円)だったという。このチャンネルを支えるのは多くの低年齢の子どもたちだ。同年代のライアンくんが遊ぶ動画を見て楽しんでいるというわけだ。
このように、これまでYouTubeでは子供向け動画が収益を上げやすくなっていた。ところが、今後は必ずしもそうではなくなるかもしれない。2020年1月、YouTubeは子供向けコンテンツからの視聴データ収集を停止、広告表示を中止としたのだ。
なぜYouTubeはこのような変更をしたのか。変更の背景とともに、影響の大きさについて解説したい。
すべてのアカウントが変更対象に
もともとはGoogleおよびYouTubeが保護者の同意なしに子供の個人情報を違法に収集していたとして、連邦取引委員会(FTC)が児童オンラインプライバシー保護法(COPPA)違反を申し立てたことがきっかけだ。YouTube側は1億7000万ドルの和解金を支払った上、今回の変更を実施したというわけだ。
今後YouTube動画を投稿する場合、過去に投稿済みのものも含めたすべての動画について、子供向けかどうかという設定をしなければならなくなった。これは、すべての動画投稿者が対象となる。設定を正しく行わない場合は、FTCなどに法令遵守義務違反とみなされたり、YouTubeアカウントになんらかの措置がとられる可能性もあるという。
https://support.google.com/youtube/answer/9527654
なお「子供」は、米国では13歳未満と定義されている。子供向けコンテンツとして認識されるものは、「子供もしくは子供のキャラクター」「人気の子供向け番組やアニメキャラクター」「子供のおもちゃを使用したお芝居や物語」「ごっこ遊びや創作遊びなど、子供が主役の一般的な遊び」「子供向けの人気の歌、物語、詩」などをメインとしたものを指す。
しかしそれだけではなく、実は「すべての視聴者向けコンテンツは、子供向けコンテンツの一種」と明記されている。つまり、「子供が主な視聴者でなくても対象視聴者に子どもを含み、上記の要素を全体的に考慮した結果として子供向けであると見なされるコンテンツ」は対象となってしまうのだ。影響の大きさがよくわかるだろう。
子供向けと判定されれば収益減、別の収益減確保が必須
設定を「子供向け」にする方法はいくつかある。チャンネル全体が子ども向けである場合はチャンネルごとも設定できるし、動画ごとにも設定可能だ。それだけでなく、クリエイターが設定するほかに、YouTube側で子供向けコンテンツとして分類されることもあるという。
つまり、子供向けチャンネル自体が規制されるとか、動画が投稿できなくなるということはない。ただし、子供向けに設定したりYouTube側で子供向けとして分類されると、パーソナライズド広告がつけられなくなる上、コメントもつけられなくなってしまう。
パーソナライズド広告とは、ユーザーのGoogle使用履歴などに基づいてターゲティングされる広告のことだ。ターゲットを絞らない広告よりも、パーソナライズド広告のほうが収益が高くなる。つまり、子供向け動画をメインとするYouTuberにとっては、大きな収益減につながる可能性が高いというわけだ。
実際、子供に人気あるYouTuberからは、「収益が減った」という声があがっている。子供向けコンテンツ中心のYouTuberの中にはもっと影響が出ている人も多いだろう。「コメントでやり取りできないのも痛い。視聴者である子供の声を聞ける貴重な場だったのに……」という声もある。
Twitchなど投げ銭を獲得できるプラットフォームを利用するなど、YouTube以外に場を移して収益を確保しようとしているクリエイターもいるようだ。今後は、特に子供に人気が高いYouTuberは、別に収益源を確保していく必要があるだろう。
これまでにも、YouTube側でのこのような変更が行われたことは少なくない。1再生あたりの収益は何度もレートが下げられているし、収益を得るための条件を厳しくしたこともある。2019年にもコミュニティガイドラインを変更したことで、過激なチャレンジ系動画などが規制、削除されることになった。
YouTubeはあまりに巨大プラットフォームとなり、影響力が大きくなりすぎている。それゆえ、今後も外部からの批判や圧力などにより規制や変更が行われることも少なくないだろう。一つのプラットフォームに頼り切っていると、行き詰まる可能性がある。クリエイターはこれまで以上に、複数のプラットフォームを活用したり、自分自身でファンを抱える必要が出てくるだろう。
(文=高橋暁子/ITジャーナリスト)