次世代技術の結晶「初音ミク」を、“文化”にまで昇華させた者は単なるオタク?
ボーカルシリーズ01 初音ミク』
(グッドスマイルカンパニー)
そして本シリーズの最後として、「なぜ初音ミクは、最高水準の技術に支えられるまでに至ったのか?」「なぜ文化にまで昇華されたのか?」などについて、まとめさせていただきます。
【楽器メーカー技術者Oさん(仮名)へのインタビュー】
ーー最近の楽器メーカーは、ボーカロイド(ボカロ)という新しいメディアの登場を、どのように考えているのでしょうか?
Oさん 正直、「現状では、状況を見守る以上のことはできない」が答えになると思います。
初音ミクで採用されている、ボーカロイド音源については、ヤマハさんが事実上の独占状態ですし、ヤマハさんが、初音ミクでこれからどのようなビジネスモデルを展開する予定なのかは、わかりません。
ーー情報処理技術を前提とするボーカロイド音源やMIDI音源によって、従来の楽器は、その存在意義を失なっていくことにはならないでしょうか?
Oさん 確かに、マイコン等によって音声が自由につくられる以上、未来の楽器が、従来のギターやドラムのような有体物である必要は必ずしもない、ともいえそうですね。
しかし、演奏の世界においてボーカロイド音源やMIDI音源を中心とする楽曲作成は、まだまだメジャーにはなっていないと思います。
ですから、我々は現在、「アコースティック感覚の電子楽器」の製品開発を行っているのです。
ーーアコースティックとはなんですか?
Oさん 電気的な処理によって作り出された音ではなく、楽器本来の音のことです。多くの人は、ドラムを叩けば1つ音しか出ないと思っていますが、実は、ドラムは叩き方の強弱やスピード、叩く位置によって、無限のパターンの音をつくり出すことができるのです。ピアノもギターも同様です。私達はこのような、楽器本来の音を再現できる電子楽器の開発を進めています。
併わせて、現実のピアノやギターと同じ演奏感覚で扱えるようなインターフェースの研究も行っています。楽器は、決められた音を出すだけの道具ではなく、楽器からの振動を、直接身体で感じて楽しむものでもあるからです。
ーーでは、当面はアコースティック感覚の電子楽器の開発に注力していくのですか?
Oさん 難しい質問ですね。「楽器は音が出れば良く、インターフェースなどは、どうでもよい」と考える世代が現れていることを考えると、このような製品開発にはリスクがあるかもしれません。だからといって、従来の楽器が完全になくなっていくと考えることも難しいのです。
何しろ、楽器とは数百年の時を経て、なおかつ生き残ってきた究極のインターフェースですからね。
ーーアコースティック感覚の電子楽器を志向するということは、演奏の形もこれまでと同様のままであるということになりますか?