スマホに膨大かつ貴重な時間を奪われる現代人…ネットで実名・顔出しで愚かな言動する人たち
「インターネット社会は現実社会と同じものであり、家の玄関に貼れるような内容は書いても問題ないが、貼れないような内容はネットに書かないほうがいいのではなく、そもそも書けないものだ――」。
わかりやすい表現を用いて、全国の学校や企業でネットリテラシーの講演を年間300回以上行う、グリー・安心安全チームマネージャーの小木曽健氏。講演のタイトルは「正しく怖がるインターネット」というもので、実は間違った怖がり方をしているケースも少なくないという。ネットをめぐる認識の「ずれ」について、小木曽氏に話を聞いた。
地方の小学6年生は8割がSNSを使用
–小木曽さんは小・中学校や高校・大学をはじめ、企業などでもネット利用に関する講演を年間300回以上行っていますが、例えば小学生と高校生とでは、ネットをめぐる問題は変わってくるのでしょうか?
小木曽健氏(以下、小木曽) 一緒ですね。起きている問題の本質は、小学校5年生でも高校生でも、または大人でも変わりません。さらにいえば、地域差も時間差もほとんどないんです。離島から街中まで、学校の先生の悩みは同じ内容・タイミングで発生します。地方に行くと「東京の学校はもっと大変でしょう?」とよく聞かれるのですが、そんなことはありません。
むしろ地方の、スクールバスがないと帰れないような大きな学区で暮らす子供は、校門を出たらもう友達に会えないわけですから、無料チャットアプリを持っていないと、放課後の友達とのコミュニケーションが成り立たないんです。そういった地方のある学校では、小学6年生の8割くらいがチャットアプリを活用していました。一方、先日講演を行った神奈川県川崎市の小学校の場合、学区が非常にコンパクトなので、無料チャットアプリを使っている生徒は1割くらいしかいませんでした。
–大人も子供も問題の本質は変わらない、とありましたが、具体的にどういった「問題」があるのでしょうか。
小木曽 「誹謗中傷」「個人情報の書き込み」「問題画像の貼り付け」などですね。でも、これらの行為は、そもそもネットが普及する以前から似たような形で存在していたことです。本質は、ネットとは関係ないところにあるんです。だから、私は「ネットいじめ」という言葉が好きではありません。ただの「いじめ」ですから。
–ネットが普及したために新しい問題が発生した、というわけではないんですね。
小木曽 はい。浅い部分しか見ないで「ネットやスマホのせいだ。それらが悪い」というような意見もありますが、それでは本質を見落としてしまうし、変な方向に進みそうで心配ですね。
以前、「女子高生の1日のスマホ利用時間を調べたら、平均5.5時間だった」という調査結果がありましたが、「利用時間の総計なんて意味がないのでは?」と思います。ネットが出現する前の高校生は、学校帰りの電車のなかで漫画を読んでウォークマンで音楽を聴いて、家に帰れば自宅の固定電話で長電話をして親に怒られていました。少なくとも私はそうでしたが、それらの行為が、今はすべてスマホに吸収されているだけなんです。スマホの機能拡大に伴って利用時間が拡大していくのは当たり前です。
大事なのは、1日何時間スマホを使っているかではなく、1日何時間スマホで遊んでいたか。音楽を聴いたり、英語のヒアリングアプリで勉強していた時間も含まれているかもしれないわけですから、「総量で見る」ほど無意味なことはないんです。
–スマホを子供に持たせることにおいて、何が問題かわからないまま、「なんとなく心配」と感じている保護者は多そうですね。
小木曽 私自身、子供にスマホは必須だとは思っていませんが、子供がスマホで悩んだ時に「何がリスクか」を理解できていないと相談に乗れません。ご自身はスマホを使っていないという学校の先生も多いのですが、「全否定したら始まりません」とよく話しています。大人は自分が使っていない道具を不必要と決めてしまいがちですが、問題解決の糸口を拒絶しているようなものですよね。
大人ほど「文字」によるネット炎上が多い
–警察でも講演をされているそうですが、どのようなことをお話ししているのですか?
小木曽 少年課で、地域の子供たちへの講演を担当している警察官の方に向けて講演を行ったり、サイバー犯罪担当者に最新の出会いアプリの動向について話したりすることもあります。ただ、基本的には大人でも子供でも、講演で使うスライドの構成は変えていません。小学5年生だろうが警察官だろうが、使っている道具は一緒、発生する問題も知らなくてはいけないことも知らないことも、全部一緒だからです。
–一時期、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)で頻発した「アイスケースに入って炎上」などは、子供というか学生くらいまでしか、やらなそうではありますが。
小木曽 ただ、大人になると文字発言による炎上が増えてきます。失言、過度な主義主張、誹謗中傷は大人になるほど増えますね。
–確かに、実名で写真も載せているフェイスブックなのに、政治的な発言をしたり、異なる意見の人にコメント欄で噛みついたりする人をたまに見かけますね。そういったことは、匿名でできる「2ちゃんねる」のスレッドでやればいいのに、と思ってしまいます。
小木曽 政治の話がNGというわけではないのですが、適切なタイミングが求められる分野ですよね。よく「ネットの匿名性」といわれますが、むしろSNSでも、匿名の掲示板でも、ネットほど、その人の本質やキャラクターが丸出しになるものはないと思います。例えば、私は今、石徹白さんと対面で話しています。これは相手がいる、2人がいるから成り立つ場ですよね。だから「自分以外」にも気遣いながら発言しています。でも、ネットはひとりぼっちでしゃべるものなので、そこにいるのは全部「自分」なんです。
普通の人だと思っていたのに、SNSを見てみたら「このタイミングでこれ言っちゃうんだ」「自慢が好きなんだ」「怒りっぽいんだ」と意外な一面を知って驚くことがありますよね。ネットは、匿名どころか本質を丸出しにする道具だと思います。
スマホが人からひらめきの時間を奪う?
–冒頭で紹介した「ネットに書き込めるもの=玄関に貼り出せるもの」のスライドは、SNSの役割と危険性を、老若男女に端的に伝える1枚だと思います。こういったアイディアは、どういう時に思いつくのでしょうか。
小木曽 だいたい、風呂場かジョギング中ですね。ボーッと何も考えずに体を動かしている時に、脳は過去の情報を再構築するそうです。風呂に入っている時、いちいち「石鹸をこれだけつけて、右腕からスポンジを3往復して……」とは考えませんよね。何も考えずにただ体を動かしている時にこそ、アイディアが浮かぶそうです。
–確かに、皿を洗っている時に、ふと名案が浮かぶことは多いです。
小木曽 そうなんですよね。スマホは便利だし、もちろん私自身も使います。ただ、もったいないなと思うのが、そんな「ボーッとしている」時間が消費されてしまうことです。防水のスマホを風呂場に持ち込むなんて、もったいなくてできません。ボーッとしている時間は、音楽も聴かないようにしています。
–音楽を聴いていると、気分は高揚しますが「何かを思いつく」「ひらめく」というのとは、また違う気がしますね。
小木曽 スマホが、人からひらめきの時間を奪っているのかもしれません。ただ、これは意識してスマホを見ない時間をつくることで、対策を立てることができます。
–「時間を埋めるのがいいことだ」「情報を収集するのはいいことだ」「ボーッとしている時間はもったいない」という感覚が、いつの間にか根付いてしまっているというのはあるかもしれませんね。
「ネットの書き込みは、家の玄関に貼れるものだけ」という考えに立ち返れば、大人も子供も、ネット上の「やらかし」は激減するだろう。一方、それでも炎上事例は後を絶たない。
「炎上とは交通事故と同じようなものであり、遭わずに一生を終えられるに越したことはない。しかし、ドライバーである以上、『事故(炎上)を起こしてしまった時の正しい対処法』は押さえておかなくてはいけない知識」と小木曽氏は語る。次回は、炎上してしまった場合の正しい対処法について、さらに小木曽氏の話をお伝えしたい。
(構成=石徹白未亜/ライター)