本連載前回記事で、全国の学校や企業でインターネットリテラシーについての講演を年間300回以上行う、グリー・安心安全チームマネジャーの小木曽健氏に「ネットに書き込めるもの=玄関に貼り出せるもの」という、ネット利用の基本的な心構えについて、話を聞いた。
この原点に立ち返ることができれば、大人も子供もネットでやらかしてしまうことが激減するだろう。しかし、ネット炎上は後を絶たないのが現実だ。今回は、ネット炎上してしまった場合の正しい対処法について、さらに小木曽氏の話をお伝えする。
大炎上した地元有力者のブログには、挽回のチャンスがあった
–炎上というと、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)で「アイスケースに入ってやったぜ」と投稿してしまうように、学生や子供がやらかす印象もありますが、大人の大きな事例としては何があるのでしょうか?
小木曽健氏(以下、小木曽) ある地方での、いわゆる「地元有力者」だった方のケースがあります。
–病院での対応に不満がありクレームをつけ、さらにその顛末を自分のブログに書いて炎上してしまったケースですね。
小木曽 この方には、チャンスがあったんです。炎上した後に、一回謝っていた。そこで「ポイントを押さえた謝罪」、つまり「なんでみんなが怒っているのか」を正しく理解した上で謝ることができていたら、「炎上対応のできる人だ」で終わっていたはずなんです。しかし、実際はまったくズレた釈明と言い訳、謝罪をしてしまいました。
–ご本人が、自分の何が悪いのか、よくわかっていなかったのでしょうね。
小木曽 そうなんです。そこで「全然わかっていない!」とさらなる炎上を引き起こしてしまいました。あわてて当該のブログ記事を消し、その後ブログ自体も消しました。しかし、すでに保存されたものがネット上に出回り、東京のテレビ局が取材に来る事態にまでなってしまいました。公職からの辞任を求める声も高まり、最終的にその方は亡くなってしまいました。
–最初の書き込みから、亡くなるまでわずか20日間の出来事だったんですね。なんでこんなことを書いてしまったのか、とも思いますが。
小木曽 あのブログは大勢に見せるために書いていたものだと思いますので、「言うべき時は言う男だ」ということをアピールしたかったのかもしれません。
震災発生時の「不謹慎狩り」は一部の仕業
–このケースは地方の有力者ということもあって大炎上しましたが、「怒れる正義の発言」を書き込む、ズレた一般の人もたまに見かけます。たった1人で“壁打ち”をしているような発言は、止める人がいないまま、人によっては過激さを増していくのでは……というのを危惧しているのですが。
小木曽 私は、ネットのせいで世の中が変質するとか人間性が変化するということはないと思います。ネットはたかが道具であり、そんな力などないと思うからです。
熊本地震の際に「不謹慎狩り」について取材を受けましたが、そんなものはそもそもないんです。実際、自分のまわりで、あれは不謹慎だ! と憤っていた人はいませんでしたし、ほとんどの人にとって、どうでもいいことだったはずです。しかし、そういう人たちは何もしないし、ネットにも書き込みません。不謹慎狩りをするような一部の人がネットに書き込むから、そういう意見が多数を占めるように見えてしまうわけです。
ネット上では発言しなければ存在しないのと一緒なので、一見、不謹慎狩りのようなムーブメントが起きているように見えますが、ほとんどの人にとっては「くだらん」「知らん」「どうでもいい」というものです。
ネットによって、人の攻撃性が高まるということはないと思います。「ネットは人の本質をさらけ出してしまう」とお話ししましたが、もともと、さらけ出されてしまうような人柄があるんです。不謹慎狩りをするような人も、もともとそういう人なんです。
–不謹慎狩りに限らず、むしろ問題なのは、ごく少数の人の極端な意見をあたかも社会現象のように取り上げる、メディア側の意識の低さだと思います。ただ、こういった「痛い」ニュースはよく見られるネタだろうな、というところに問題の根深さを感じます。
糸井重里に学ぶ、恥ずかしい失敗の対処法
–企業向けの講演も多くされていますが、企業からはどういったリクエストが多いのでしょうか?
小木曽 どの企業も、「従業員がネットでやらかさないか」ということを一番気にしています。あとは「やらかしてしまったら、どうしたらいいか」、この2点ですね。予防策については、「そのネットの書き込み、家の玄関に貼れますか?」でOKです。この考えを徹底することができれば、基本的にミスはしないはずです。
ただ、それでも炎上してしまった際の対処について、知っておくことは大切です。これは、車の運転に近いと思っています。みんなが交通事故を起こすわけではないし、できれば一生事故なんて起こしたくない。実際、一生事故を起こさない人もたくさんいます。でも、どんなドライバーでも、事故を起こした時にどうすべきかということは知っておく必要がありますよね。
救護活動をはじめ、救急車や警察、保険会社への連絡、後続車の誘導……そのどれもが欠けてはいけませんし、そういったことを知らない人が車を運転するのは無責任です。ネットも同じで、炎上しないような安全運転を行うべきですが、万が一の時にどうするべきかについても知っておかないといけません。
—炎上してしまった後の基本方針は、どういったものでしょうか。
小木曽 基本は「消すな、逃げるな」です。「かっこ悪いから」とごまかしてはいけません。
–小木曽さんの講演資料(本記事の画像)でも、投稿自体の取り下げをせず、「取り消し線」を用いて謝罪するように説明されていますね。
小木曽 炎上は、実はその後のふるまい、「どう対処したか」という事後処理が見られているんです。これは、個人でも企業でも同じです。いかにごまかさずに対処できるか、腹を据えることができるかが見られているんです。
–以前、タレントがツイッターで問題発言を書き込んで批判された時に「アカウントが乗っ取られた」と釈明していましたね。
小木曽 そこでも、その人の人間性が出るのです。言い訳したり、ごまかしたりする人もいれば、「やっちゃった」と素直に言える人もいる。
対応としては、糸井重里さんがかっこよかったですね。糸井さんの場合は、炎上ではなく、エロ系のニュースリンクをクリックしたら、それがばれてしまうという悪質ないたずらにひっかかってしまったんですね。同じいたずらに引っかかった人の多くは憤ったり、「私じゃない」とごまかしたりしていましたが、糸井さんは、思わずクリックしちゃったよ、と対処したわけです。かっこいいですよね。
–ベストな選択ですね。
小木曽 こちらも同様に、そのいたずらに引っかかったことそのものではなく、その後の対処が評価されているんです。交通事故を起こしてしまったとして、それをなかったことにするにはひき逃げするしかありませんが、選択肢としてあり得ません。
「子供のほうがネットに詳しい」は間違い
–事故後の対応が必要なのに、事故自体をなかったことにしようと奔走してしまう人は、過去の事例を見ても多いですね。一方、デジタルネイティブの世代が増えてきましたが、子供のほうがネットリテラシーが高いと思うようなことはありますか?
小木曽 大人も子供も一緒です。ネットやスマホは、大人も子供も、私も含めて、みんな1年生です。学校の先生のなかには「子供のほうが詳しいから」という人もいますが、それも違います。
子供は、目隠しをした状態でもアクセルをぐっと踏めますが、大人は踏めない。この違いだけです。大人は「よくわからないけど、怖いから踏まない」というだけです。子供のほうが詳しいのであれば、子供と大人で講演の内容を変えますが、まったく同じですから。その道具の本質を知って初めて、詳しいと言えるのだと思います。
なぜネット上のアホ投稿が絶えないのか
—SNSの本質とは、なんでしょうか?
小木曽 SNSは、ネットによって生まれたツールではなく、ネットが普及する以前からあるものです。昔、鉄道の駅の改札に黒板の伝言板がありましたよね。これは、SNSなんです。SNSの要件は「人と人を結びつける機能」「人と人との結びつきをより深める機能」の2つです。雑誌の「ペンパル募集」、ショッピングモールや地方紙の「あげます・ください」コーナーもSNSですね。近所の電柱に貼られた「うちのインコを探しています」もSNSです。
ただ、それらのローカルなSNSとネットのSNSには大きな違いが2点あって、ネットは全世界に一瞬でぶっ飛んでいくものです。スピードと範囲、この2つがケタ違いですから、その違いをわかっていればいいんです。
—炎上案件を見ると、なんでこんな不用意なことを書いてしまったんだ、と思うことが多いですよね。
小木曽 ネットやSNSは玄関のドアですが、例えば玄関に「お昼ごはんおいしかった」「友達と遊んだ」と書き込んだところで、そんなものは誰も興味を示しません。本人たちも、みんなに見せるつもりじゃなく、友達にしか見せない「つもり」で書き込んでいる。実際、友達しか関心や反応を示さない。その感覚のまま、炎上するような内容を書き込んだら、今まで素通りしていた全員が一斉に振り返るわけです。それで、当の本人がびっくりしてしまう。
ツイッターでそんな書き込みをした若者のアカウントが炎上し、本人が「なんだよお前ら、勝手に見にくんじゃねーよ!」と反論したという象徴的なエピソードがあります。自分で情報を掲げておいて「見んじゃねーよ!」なんです。
–地方有力者の事例といい、アイスケースなどの過去の炎上事例といい、数年前のことなのに、ネットですぐに当時の情報を調べることができます。未成年でも実名がわかってしまうケースもあるなど、あらためて炎上は恐いですね。
小木曽 「玄関のドアに貼れることしか書かない」という予防意識のもとで、炎上を起こさないのが一番です。ただ、もし炎上してしまったら、逃げずに対処する。そして、適度に、正しく怖がりながらインターネットを使うことが大切だと思います。
–ありがとうございました。
(構成=石徹白未亜/ライター)