米国のドナルド・トランプ大統領は、「アメリカファースト」を掲げ、製造業の米国回帰と米国国内における雇用の創出を強調してきた。そのやり玉に挙がっていたのがアップルをはじめとする、米国外での製造によって莫大な利益を抱え、その利益を米国外に蓄積しているグローバル企業だ。「アップルに、米国内に工場をつくらせる」ことは、トランプ大統領にとって就任前からのひとつのわかりやすいゴールとなっていた。
7月25日に米紙ウォール・ストリート・ジャーナルが報じたトランプ大統領へのインタビューで、同氏はアップルのティム・クックCEOが「米国内に巨大な工場を3つつくる」と約束したと話した。前述のような、トランプ大統領にとってわかりやすいゴールの実現を示す話であるが、果たしてこれは実現するだろうか。
アップルは工場をつくらない?
「アップルに工場をつくらせる」というトランプ大統領の目標は、若干言葉足らずな部分がある。同社製スマートフォン「iPhone」発売以降、アップルは自社で直接工場を持つモデルを取っていないからだ。
アップルはサプライヤーから部品を調達し、「製造委託先」となるパートナー企業によって製品の組み立てを行うモデルを成立させてきた。このモデルを確立し、実行してきたのは、クック氏の手腕によるものだったと振り返ることができる。
いくらトランプ大統領の意向だからといっても、クック氏が既存のモデルを崩してまで、これに応じるとは考えにくい。つまり、トランプ大統領が言うようには、アップルは工場を建設しないと考えるのが妥当だ。
ただし、アップルはMac Proなど一部の製品について、米国内での製造を行っている。また、カバーガラスを製造しているアップルのサプライヤー、コーニングに対しては、アップルが創設した10億ドルの米国向け先端製造業向けファンドによる投資を実施した。
アップルが工場をつくるわけではないが、アップル製品に使われるパーツや、製造委託先企業の工場が米国内に新たに建設される可能性はあると考えられる。
鴻海による100億ドル投資とディスプレイ工場建設
米国時間7月26日、ホワイトハウスで行われた記者会見で、ひとつの答えらしきものが明らかになった。記者会見場には台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業のテリー・ゴウCEOが登壇し、ウィスコンシン州にディスプレイ工場を建設することを発表したのだ。最新のディスプレイ技術についてはシャープとの協業を行い、主に医療やエンターテインメント向けの「米国製の」ディスプレイパネルの製造を行うとしている。