スポーツ用品メーカー世界大手のアディダスは、サッカーでプレイ中の選手の動きをリアルタイムに把握し、監督やコーチに情報を提供するシステムの開発を進めている。
2012年7月には、米国メジャーリーグサッカーのオールスターチームと英国チェルシーFCがフィラデルフィアで対戦した試合で、同社の「マイコーチ・エリート・チーム・システム」という計測システムが使われた。
このシステムは、試合に出ている各選手の速度、心拍数、加速度、走行距離などの情報をリアルタイムでタブレット端末に送り、監督やチームスタッフが各選手の“今”の状態を把握するというもの。選手の動きを計測するための電子チップをユニフォーム内の専用ポケットに取り付けて「1人のプレーヤーにつき1秒あたり200を超えるデータ」(「アディダスHP」)を記録し、監督のタブレット端末などに送信する。
現地のサッカー記者からは、「総合分析がなされたのは少数の選手だけだった」(「SBネーション」)と“期待はずれ”の声も上がったが、一方で「スマート・サッカーは、まさに試合の状況を劇的に変える存在」(「AMA PDX」)という評価の声もあった。13年度のメジャーリーグサッカーでは、全チームに「マイコーチ」のシステムが提供されている。
●選手の次はボール
サッカーの試合で、選手以外に“動き”があるものといえばボールだ。アディダスは13年5月、「スマート・ボール」と呼ぶサッカーボールを開発したことも発表している。このボールは、動きを検知できるセンサを内蔵させたもの。選手が蹴ったボールの速度、回転数、距離といった情報がリアルタイムに端末機器に送られる。同社は14年の発売を視野に入れていることを明らかにしている。
同様のリアルタイム状況把握技術の開発は、ほかにドイツの研究機関フラウンホーファー協会の集積回路研究所(IIS)でも進んでいる。各選手の脚の部分と球にそれぞれ電子チップを付け、情報を無線で飛ばす。それを端末機器で受信し、監督がフィールドでの各選手とボールの位置などを把握する。
試合中にITが活用されるスポーツ競技としては、アメリカンフットボールやバレーボールなどが知られている。これらの競技にはプレイとプレイの間に“間隔”がある。これらに対して、サッカーではボールがタッチラインを割ったり、選手がファウルを取られたりしない限り、プレイは続いていく。サッカーのような“流れ”を基本とするスポーツ競技にも状況をリアルタイムに把握する技術が導入され始めたことは、スポーツのIT化における新たな注目点といえるだろう。
もちろん、各チームがこうしたITを駆使するには、連盟による規則改正などの手続きが必要になる。とはいえ、さまざまなスポーツ競技でIT化が進んでいる中で、サッカー界がそこから外れたままの状態を選ぶことも考えづらい。“新たな情報戦”が当たり前になるのは時間の問題だろう。
(文=漆原次郎)