ただ不可解なのは、日本国内における携帯電話の総契約数が人口(約1億3000万)を超えて市場が飽和化し、スマートフォンの普及も進んでいる中で、これほど多くの純増数がなぜ安定して確保できているのかということだ。そこには、「純増数」という指標の裏にカラクリが潜んでいるのではないかという見方もある。
●「携帯電話純増数」は、携帯電話・スマートフォンの契約数のみではない?
ひとつは、各社が発表し一般社団法人電気通信事業者協会(TCA)がまとめている「携帯電話純増数」という言葉の定義だ。一般的には「携帯電話純増数」は携帯電話やスマートフォンの契約数を元にしているものだとイメージされているが、実際には異なる。
携帯電話純増数は、携帯電話各社の「回線契約数」を元に算出している。つまり、各社の携帯電話回線を必要とするものは、すべて「回線契約数」に含まれる。その事実が表面化したエピソードとして有名なのは、NTTドコモが、20カ月連続首位(当時)だったソフトバンクモバイルから首位の座を奪った11年12月の純増数。このときは、それまでのドコモの純増数が約10万件前後の低空飛行だったのに、この月だけ約42万契約と他社を圧倒したのだが、実はその要因は携帯ゲーム機「PlayStation Vita」の3Gタイプで、ドコモのプリペイドサービスを利用するための契約増だった。携帯ゲーム機の販売が、ドコモの契約数を大幅に底上げしたのだ。
このように、携帯電話やスマートフォン以外の端末が販売された場合でも、純増数は上がる。ソフトバンクではスマートフォンの販売はiPhone5にほぼ集約する一方で、デジタルフォトフレーム「PhotoVision」、子供向けの「みまもりGPS」、ホームセキュリティ製品などを積極的にシリーズ展開しており、これらが純増数の底上げに貢献していることが推測できる。
ちなみに、KDDIが22カ月連続で首位を守ったモバイルナンバーポータビリティ(MNP)は、利用者の携帯電話番号を変えずに携帯電話会社を変更する手続きで、携帯電話・スマートフォンの利用者のみを対象にしているもの。各社決算発表の「解約率」でも業界最低水準をキープしているという。市場の勢いを正確に計るのであれば、このMNPと解約率に関する各社の動向にも注視が必要だ。
●ソフトバンクの「プレゼント」に潜む罠
もうひとつは、ソフトバンクが積極的に展開している“抱き合わせ販売”の手法だ。例えば、「スマートフォンを新規で契約すると、デジタルフォトフレームをプレゼント」という店頭でのセールストーク。これは実際にはスマートフォンの回線契約と同時にデジタルフォトフレームの回線契約も結ぶ必要があり、ソフトバンクにとっては一人の顧客から2回線の契約を獲得できたことになる。また、「スマートフォンとフィーチャーフォン」「スマートフォンと子ども向けケータイ」「スマートフォンとデータ通信カード」など、複数回線の契約に対してキャッシュバックを増額している販売店もみられ、“抱き合わせ販売”はソフトバンクにとってスタンダードな販売手法のようである。
ネット上でのユーザーのコメントを見てみると、「ソフトバンクがフォトフレームをばら撒いてた」「ソフトバンクモバイルのiPhone5が端末代1円になるというので条件を聞いてみたら、みまもりGPSなるものを2回線契約することが条件だそうで……。実質1回線の契約で純増3回線ってことか」といった情報から、「土曜日にドコモからソフトバンクにMNPしたのだけど、そのときなぜかガラケー2回線も契約させられちゃった。こんなに回線いらないっ。解約できないのかな」「ソフトバンクに聞いたんだけど、フォトフレームって2年契約だから途中解約すると約9000円くらい払う羽目になるとか、さすがに解約はムダになるな。なぜ使いもしないフォトフレームをオプションに入れたのか、過去の自分に聞きたい」と特典を受ける条件を後悔する声も数多く見られる。
スマートフォンと抱き合わせになる製品(フォトフレームやフィーチャーフォンなど)の契約を解除する場合には、契約者が高額な解約金や端末代金の負担を強いられる場合もある。販売現場では「プレゼント」と称しているが、これは端末代金を毎月の料金から割引することで相殺するケースが多く、実際には「プレゼント」でないこともある。この点は販売現場でもあまり語られず、消費者が誤解するポイントでもある。このような契約をする際には細心の注意が必要だ。
また、フリージャーナリストの法林岳之氏が「インプレスウォッチ」のビデオコンテンツで語ったところによると、ソフトバンクの販売代理店では、3Gの携帯電話・スマートフォンから「SoftBank 4G(AXGP)」への機種変更をする顧客に対して「機種変更するとSIMカードが変わり、過去の端末のデータが見られなくなるから、(過去の携帯用の)新しいSIMカードを用意する」などと説明して、新たな回線契約を消費者に強く推奨するというケースもみられるという。もしこれが事実であれば、非常に悪質で詐欺に近い手法だと言える。ソフトバンクには、販売時に消費者への適切かつ十分な説明を求めたいところだ。
このように、ひと口に「純増数」といっても、その背景にはさまざまなカラクリが存在していることが伺える。現在、携帯電話各社には「純増数」の細かい内訳までを公開する義務がないが、このような状況を踏まえると、「純増数」の大きさや連続首位の実績が人気の尺度になることには疑問を抱かずにはいられない。
特にソフトバンクは、この携帯電話純増数だけでなく、電波の繋がりやすさや通信エリアの広さ、顧客満足度の高さなどについて、自社に有利な数字を利用して優位性をアピールする傾向があり、孫正義氏自身も、記者発表などのプレゼンテーションで「純増数が人気の尺度である」と受け取れるような巧みな「セールストーク」を繰り広げている。しかし、長く使う携帯電話会社を選ぶ際には、表面的なセールストークに惑わされることなく、このような背景を十分に理解した上で、信頼できるブランドを選びたいものだ。
(文=ライトフォーワン)