近年、スマホの普及によって「歩きスマホ」が問題視されていますが、最近では“歩きスマホをしている人”を狙った「当たり屋」が存在するようです。こうした当たり屋は“歩きスマホによる前方不注意”を逆手に取り、対象者にわざとぶつかって「スマホを落として壊れたから修理代をよこせ」「転んでケガしたから後で病院に行く。示談金がほしい」などと金銭を要求。実際は、嘘であったとしても、歩きスマホは“マナー”を欠いた行為であるため、支払わざる得ない状況になりやすいのだとか…。
非常に厄介なトラブルですが、できれば金銭は払わない方向に持っていきたいところ。そこで今回は、弁護士ドットコム株式会社/技術戦略室 Professional Tech Labの仮屋崎崇弁護士に取材を実施。歩きスマホを狙った「当たり屋」に遭遇した場合の“対応方法”などを聞いたので、さっそく紹介していきましょう。
「歩きスマホ」と「当たり屋」、どちらの方が分が悪い?
――そもそも「歩きスマホ」は、違法行為として罪や罰金が科せられてしまうのでしょうか?
仮屋崎弁護士:結論から申し上げると、「歩きスマホ」自体が違法行為や、犯罪として刑罰が科せられることはありません。しかし、一部の自治体は、条例によって歩きスマホを禁じています。
たとえば、東京都荒川区は「荒川区スマートフォン等の使用による安全を阻害する行為の防止に関する条例」にて、公共の場所で、スマートフォンなどの画面を注視しながら歩行することを禁止しています。ただ、荒川区を含むいずれの自治体の条例でも、規定に違反して歩きスマホを行ったとしても、罰則はありません。
賠償責任は“誰の行為で損害が生じたのか”がキーポイント!
――相手が「当たり屋」だった場合でも、“歩きスマホをしていた人が悪い”となってしまい、金銭を払わなければいけないのでしょうか?
仮屋崎弁護士:相手に与えた損害を賠償する必要があるのは、
①故意または過失があること
②相手に損害を与えたこと
③損害が故意・過失によって生じたこと
が認められる場合です。
たしかに、歩きスマホをすることは不注意であり、過失と言えるかもしれません。しかし「当たり屋」があえて、歩きスマホをした人にぶつかったことで「当たり屋」の所持品や身体に損害が生じたとしても、その損害は「当たり屋」の行為によって生じたものであり、歩きスマホの過失によって生じたものとは言えないというケースがほとんどでしょう。
そのため、仮に歩きスマホをしている人が、いわゆる「当たり屋」にぶつかるなどで「当たり屋」の所持品や身体に損害を与えたとしても、金銭を支払わなければいけないという可能性は低いと考えられます。
連絡先や住所を安易に教えるのは危険!
――「当たり屋」に示談金を要求された場合、うまく免れる方法はありますか?
仮屋崎弁護士:ぶつかった相手が「当たり屋」だと思われる場合は、“その場で示談金を支払う”といった約束をしないことが重要です。また、名刺を渡したり、連絡先や住所を教えたりすると、後に裁判を起こされてしまうことにつながりかねません。そのため「当たり屋」の疑いがある場合、そういった行為は避けることをオススメします。
――歩きスマホを狙った「当たり屋」に遭遇した時の対処法をお教えください。
仮屋崎弁護士:「当たり屋」と思われる人物とトラブルになったのであれば、相手に向かって「警察に連絡する」と、はっきりと言うことが大切です。それでも示談金の支払いを強く求めてくるのであれば、実際に110番通報するのもよいでしょう。
裁判沙汰に発展するのは稀!?
――「当たり屋」かどうか判断が難しいところだと思うのですが、最悪裁判沙汰になった場合、勝てる見込みはあるのでしょうか?
仮屋崎弁護士:まず「当たり屋」が裁判に持ち込むには、歩きスマホをしていた人の氏名・住所を知る必要があります。また、裁判を起こすのにも費用はかかります。これらの事情を踏まえると、裁判に発展すること自体が稀と言えるでしょう。
仮になんらかの方法で氏名・住所を知って裁判を起こされたとしても、「当たり屋」側は、
①故意または過失があること
②相手に損害を与えたこと
③損害が故意・過失によって生じたこと
を立証する必要があります。
「歩きスマホ」をしていた原告の過失の存在、そして「当たり屋」の所持品が壊れたという損害の存在が認められるのであれば、「歩きスマホをしていた人の前方注意によってぶつかったことが、損害の原因であるかどうか」が争点になると考えられます。
もし、ここで「当たり屋」側が③の「損害が故意・過失によって生じたこと」について一定の主張・立証をした場合、歩きスマホをした人は「相手が明らかにおかしい倒れ方をした」などの反論・立証をする必要が出てきます。しかし、歩きスマホをしている人は“相手の行動”を見ていないケースがほとんどだと思うので、この点の立証には一定のハードルがあります。
そのため「当たり屋」と裁判沙汰になった場合、請求棄却(=勝訴)となる可能性がある一方で、請求認容(=敗訴)となる可能性も十分にあり得ます。そのようなリスクがあるという観点からも、「歩きスマホ」はやめた方がよいでしょう。
自分が負った損害を賠償してもらうのは難しい…?
――逆に、歩きスマホをしている人とぶつかって、本当にケガをしたり、スマホなどが壊れてしまった場合、相手に請求はできるのでしょうか?
仮屋崎弁護士:ぶつかったその場で、歩きスマホをしていた相手に修理代相当の金額の支払いを請求すること自体は問題ありません。(※連絡先を教えてもらえれば、後日でも大丈夫です)
しかし、交渉がうまくいかず、裁判になった場合は、相手方が「歩きスマホをした事実」について争ってくる可能性もあるかもしれません。そうなると、“損害賠償を請求する立場”であるこちら側は、相手が“歩きスマホをしていたこと”を立証したうえで、“その歩きスマホ中の前方不注意によって損害が生じたこと”を立証する必要があります。なので、こちら側の請求認容(=勝訴)までのハードルは、決して低くないと言えます。
まとめ
歩きスマホを狙った当たり屋への対応として、「名前・住所・連絡先を安易に教えない」「警察を介入させる」「お金を支払う約束をしない」などの行動が重要であることがわかりました。
また、裁判になったとしても“当たり屋側”が勝訴するハードルは高いうえに、そもそも時間やお金をかけてまで裁判を起こす可能性も低いと考えられます。しかし“決してない”とは言い切れず、当たり屋に遭遇した時点で、かなり揉めることも予想されるので、やはり「歩きスマホ」は絶対にやめるべきでしょう。
実際、歩きスマホが原因で“相手にケガをさせてしまった”というニュースもたまに見かけます。そのため、移動中は周囲の人や物に気をつけていくことが、厄介なトラブルに巻き込まれずに済む“一番の対応策”と言えるのではないでしょうか。
歩きスマホをする人が減れば、自然と「当たり屋」も減っていくかもしれません。
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