アベノミクスにおける成長戦略の目玉のひとつが、「農業・農村の所得倍増」である。自民党は2013年4月に「農業・農村所得倍増目標10カ年戦略」を発表し、同年6月には閣議決定された「日本再興戦略」で「今後10年間で6次産業化を進める中で、農業・農村全体の所得を倍増させる」ことが明記された。そして、農業の担い手の利用面積が全農地の8割になるよう集約する、コメの生産費を現在の6割まで引き下げるなどといった政策を強引に進めている。
しかし、生産現場では昨年からの米価暴落で、「所得倍増」どころか所得激減で離農に追い込まれる農家が続出しており、政府に対し批判の声が高まっている。
では一体、政府はどのように「農業・農村の所得倍増」を実現しようとしていたのか。
その計算根拠が先頃明らかになり、いかに架空の計算で策定されたかが判明した。
農村所得の計算方法に疑問
政府は13年の農業・農村所得が4兆1000億円だとして、それを25年には8兆円に倍増するとしている。その内訳は、農業所得を13年の2兆9000億円から25年の3兆5000億円に増やすというもの。農村所得は13年の1兆2000億円を25年に4兆5000億円へ実に3.75倍にするとしている。つまり農業所得は政府見通しでも増加率は1.2倍にすぎず、現在の米価暴落の状況下ではまったく説得力がない。
農村所得増加の中で一番寄与率が高いのが、農林水産物輸出による所得である。農林水産物の輸出額(13年は5500億円)が25年には3兆4500億円、つまり現在の6.27倍にするというものである。しかし、この数字に根拠はまったくない。唯一の根拠らしきものは、30年の農林水産物輸出目標5兆円の中間値としたというもの。しかも、農林水産物の輸出の65%は加工品である。その加工工場は農村部より大都市のコンビナートに多く配置されており、加工品輸出による所得を農村所得として計算することは正しくない。
輸入自由化の推進と矛盾
さらに問題なのは、農林水産物輸出のうち、水産物輸出による所得を農村所得として計上することである。政府の農林水産物輸出戦略によると、農林水産物輸出のうち水産物輸出は35%ものシェアを持っている。そうすると25年の農林水産物輸出のうち水産物輸出額は1兆500億円にも上ることになる。当然のことながら、水産物は漁港で水揚げされて水産加工場で処理され、大半は漁協を通して流通する。この所得は農村に帰属するのではなく、漁村に帰属するものである。それを農村所得として計上することは正しくない。正確には、農林水産物輸出額から水産物輸出額を差し引いて計算すべきである。