ところが、「そうはさせるか」と、03年の改正で、この50年を70年に延長させてしまったものです。この時は、ディズニーというのは日本の法律も変えてしまうほどの、「夢と魔法の『利権』王国」なのだなぁと、びっくりしたのを覚えています。
(4)発明公表から特許出願までの猶予期間
新規性喪失の例外(特許法30条)の話だろうと推測します。現在、ちゃんとした理由があれば、特許の内容が多くの人に知られてしまった後でも、半年以内なら出願できます。この期間を延長するということなのかなぁ、と思っているのですが、理由がよくわかりません。(世界中に迷惑をかけ続けた)米国の先発明主義から、先願主義への移行に伴う担保措置と推測します。日本にとっては、単なるいい迷惑のような気がしますが。
(5)営業秘密や医薬品のデータ保護期間
これは、多分ジェネリック医薬品のことだろうと思います。ジェネリック医薬品は、特許権が満了したために安くなる薬で、我々にはうれしいことなのですが、莫大な投資をした製薬会社からすれば、特許権が切れるのを待って薬を作り始めた会社に、「そりゃねーだろうが」と文句の一つも言いたいだろうと思います。でも、そうなると、医薬に関しては、特許権以外で保護を図るということになるのでしょうか。どんな制度になるのか想像もつきません。
(6)民事救済における法定損害賠償
これは、特許権侵害をした場合に、民事事件であっても法定金額をきっちり決めろ、ということだと思います。特許権侵害を承知で製品を作っていたりする人が、特許権侵害で敗訴したとしても、最初からライセンス料相当を払うだけ済むなら、「バレないほうに賭けてみる」と思うのは当然です。現行法でも、こういう悪質な侵害に対しては、通常の場合より高くするという規定はあるのですが、法律でキチンと「3倍以上」などと記載しろ、ということなのでしょう。
(7)著作権侵害に対する職権による刑事手続き
今年(12年)の10月1日から、音楽や動画のダウンロードは刑事罰の適用になりましたが、映画会社やレコード会社が被害届を出さないと警察は動けません(親告罪)。これに対して、被害届なしでも、ダウンロードに対して家宅捜索ができる、ということになります(非親告罪化)。メインとしては、違法DVD業者の摘発を狙ったものと思われます。しかし、非親告罪化すれば、当然、警察はプロバイダに要請して、私の自宅のパソコンの通信状態も把握できることになります(とっても簡単)。
「ん? なんで、こいつは30分の番組の視聴をしているのに、たったの4分で通信が終わっているんだ」→「コンテンツをダウンロードしてパソコンにファイルで記録しているな」→「おい、捜査令状取ったか? それ行け!」ってな感じで、いきなり私の家にもお巡りさんが踏み込んでくる可能性は、従来よりも格段に高くなります。
(8)インターネット・サービス・プロバイダの責任制限
インターネットの掲示板サービス事業者が、通告を受けた際に、当該コンテンツを速やかに削除し、また、コンテンツの発信者にその旨を通知すること、要するに「2ちゃんねるの削除要求」や「YouTubeのコンテンツ削除要求」に対して責任を持ってもらうということです。
ストライク・ルールというのもあるそうです。なんでも、3回警告したのに言うことをきかなかったら、アカウントを停止する(アウトにする)ということらしいです。ともあれ、このように、プロバイダに著作権違反に対する責任を負ってもらい、怠けていたら罰則を科すという規定の導入のことのようです。
と、せっかくここまでがんばって書いてみたのですが、脱稿直前に、このTPPの知的財産について、すでに福井健策先生が、ほぼ完璧な見解【註2】を「信じられないほど、分かりやすく」書かれておられることに気がつきました(これを読んだ後、フニャフニャと力が抜けてしまいました)。興味のある方は、ぜひそちらをお読みください。絶対に損はありません。
さて、米国が日本側にこれらをすべて要求するとなると、相当大規模な法改正が発生するのでしょう。先に行われたダウンロード刑罰化は、この一環であると解釈するのが自然でしょう。
しかし、これは我が国にとっては、結構大変な作業になります。ほとんど、米国ルールの日本への適用要請(強制)のようなものですから。それでも、知的財産法についてかなり整備されている日本はまだマシでしょうが、この条件を、他のTPP加盟国が呑めるか? というと、私は相当怪しいと思っています。