その具体策として13年4月、大阪駅北隣の「うめきた再開発地区」にあるグランフロント大阪のナレッジキャピタルタワー内に「大阪イノベーションハブ」を開設している。
同所では、15年3月末までの2年間で約380件のイベントが実施された。起業家、企業、大学、研究機関、メンター、エンジェル投資家、ベンチャーキャピタルなどが相互に出会える場を提供し、約2万5000人に上るネットワークを構築した実績がある。
「浪速のシリコンバレー」を目指したこの場所から、ウェアラブルデバイス玩具「Moff」で本物のシリコンバレーからも注目された株式会社Moffをはじめ、IT、コンテンツ関連などでいくつかの有望なベンチャーが旗揚げしている。
関西では、大阪証券取引所の現物株式の売買も、そのベンチャー向け新興市場も東京に移転してしまった。そのため、東京に比べてベンチャーの資金調達の環境がぜい弱だと指摘されることもある。
だからこそ、志とアイデアを持つ起業志望者が「大阪で起業したい」と集まるようにするには、起業のエコシステムだけでなく、ベンチャーファンドなどによる資金支援の仕組みも整える必要がある。その両方を揃えて、ベンチャーをテコに停滞気味の関西経済を活性化したいというのが、大阪市の狙いだ。
自治体のベンチャー投資が難しい理由
大阪市は間接的にベンチャーファンドに出資するが、自治体自らベンチャーファンドを設立・運営しているケースもある。
その代表的な例が、広島県が11年5月に設立した「ひろしまイノベーション推進機構」で、投資事業有限責任組合(ベンチャーファンド)を通じて検査装置や薄膜センサーのメーカー、病院・高齢者施設での食事サービス、再生医療を手がける大学発ベンチャーなど、広島県内の新興企業に投資している。
しかし、直接的にしろ間接的にしろ、自治体がベンチャー投資を手がけると、どうしても住民から「税金を使って何をしているんだ」という目が向けられる。もし、投資先が倒産して損失を出そうものなら、議会で追及されかねない。
民間のVCであれば、その株主やファンドの出資者はVCならではのリスクがあることを承知の上で出資しているが、納税者の場合は必ずしもそうではない。そのため、どうしても投資先の選定や審査には慎重になる傾向があり、民間ならゴーサインを出すケースでも、自治体では二の足を踏んだり、時間がかかったりしてしまう。「お役所仕事」といわれるが、納税者がバックにいると、仕方ない部分もあるのだ。
そもそも、VCというビジネス自体、100件投資して3件がイグジット(株式上場または買収)で大当たりすれば、利益が上がり御の字という世界だ。ハックベンチャーズの校條氏が活躍した、本場・シリコンバレーのVCでも、過去15年間で投資額を上回る金額を回収できた投資先は約10%で、約60%は投資額を下回ったといわれている。