人民銀行の関係者からは、今回の決定は輸出促進を目指したものではないとの見解が出ている。切り下げの理由は人民元の国際化を進めることにあるという。一方、市場は景気支援を目的にしていると考えているようだ。
政府、中央銀行の考えがどうであれ、市場が中国経済への懸念を高め、アジア市場での通貨安競争を懸念し始めたことは無視できない。そのため、中国経済のリスクがこれまで以上に意識されやすくなっていることには注意が必要だ。
景気減速に直面する中国
一般的に、人民元切り下げの最大の理由は、景気支援にあると考えられる。その理由は、中国が経済成長を支えられる基盤を確保できていないからだ。
中国の経済成長は輸出に支えられていたが、2008年のリーマンショック以降、世界的な景気後退を受けて輸出主導の成長は困難になった。そこで中国はインフラ投資などを積極的に進め、景気低迷を乗り切った。積極的に推進された投資は、成長率の低下とともに収益率の悪化に直面した。
特に13年5月には米国での早期利上げ懸念が高まったこともあり、一挙に中国の信用問題に対する懸念が高まった。この結果、地方政府の財政は悪化、国有銀行の保有する不良債権は増加し、投資に依存した開発を進めることは難しくなっている。
こうした動きを受けて足元では、中国の景気減速懸念が高まっている。7月の輸出は前年同期比で8.3%減少し、市場予想を下回った。6月以降の株価下落やディスインフレ(物価上昇率の減少)圧力を払しょくするためにも、景気への期待を高めることが重要だ。そのために中国は、人民元の切り下げに踏み切ったのだろう。
今回の措置は、景気を支えるためにできることはなんでも実行するという政府の意思表明とも考えられる。国有企業のリストラや鉄鋼業界などの再編が不可避となっている状況下、雇用や所得環境への懸念は高まりやすい。そのため、中国は今後も利下げや財政支出などの景気刺激策を積極的に発動する可能性がある。