しかしその一方で、経済崩壊の足音を感じさせるような出来事も中国で起きている。
海外輸出向け製造業を基幹産業として栄えてきた広東省の珠江デルタは、中国で最も人口が密集している珠江河口の広州、香港、マカオを結ぶ三角地帯を中心とする地域だが、国慶節期間中から工場閉鎖が相次いでいるのだ。
広東省の有力紙である南方都市報によると、10月5日午前、東莞市にある台湾系の電子部品メーカー金宝電子の工場で、突然の操業停止が工員に言い渡された。この日、工場は国慶節休みを前倒ししての9連休が明けたばかりだった。久しぶりに出勤してきた工員たちは、そこですでに生産ラインが撤去されていることに気がついた。
工場側は「閉鎖は内部調整によるものであり、別の工場に配置転換するだけ」と説明したというが、工員らはこれに納得せず、処遇の保証を求めてがらんどうとなった工場にとどまり続けたという。
さらに同市では、10月10日にもスマートフォンのケースなどを製造していたプラスチック成形工場が突然閉鎖されている。原材料の仕入先である数百の企業への買掛金、合わせて約5億8000万円と、約80名の工員の賃金合わせて約950万円が未払いのままであり、事実上の夜逃げであるようだ。
東莞市では、昨年から当局による性風俗取り締まりが強化されたことで、経済が停滞しているといわれている。さらに、屋台骨である製造業も衰退するとなれば、まさに泣きっ面に蜂であろう。
また、10月8日には同じ珠江デルタの深セン市でも、ファーウェイやZTEと取引のある電子部品メーカーが破産している。
国慶節をまたいで相次ぐ工場閉鎖について、「皮肉なものだ」とこぼすのは、広東省在住の日本人ビジネスコンサルタントの男性だ。
「2~3年前までは、生産拠点の内陸移転が進行中で、里帰りついでにそこで就職してしまうという工員が多かった。そのため、沿岸部の工場では、春節や国慶節の大型連休が明けに工員の一部が戻って来ず、人手不足に陥るという現象に頭を悩ませていた。それが、いまや立場が逆になってしまった。沿岸部では、ここ5年ほどで倍増した人件費にメーカーは頭を悩ませていますが、一部の大企業は別として、これから内陸移転する企業体力は残っていない。最終的には、大型連休で工員がいないうちに、夜逃げするしかないんでしょう」
今後は大型連休といえ、中国の労働者はおちおち休んでいられなくなりそうだ。
(文=牧野源)