この100万円寄付については、国会は籠池氏を証人喚問し、同氏は受け取った際の詳細な状況まで証言した。一方で寄付を渡した安倍昭恵氏の証人喚問や記者会見は実施されず、昭恵氏付の内閣事務官だった谷査恵子氏は海外の大使館勤務となり、直接話を聞くこともできていない。寄付金受領の物証となる郵便局の振込取扱票の存在も明らかになっており(写真2)、事実認定されているにもかかわらず、昭恵氏は公の場画での説明から逃げ続けている。そして安倍首相は国会答弁で約束した辞任をしていない。
籠池夫妻の刑事裁判には、以上のような事情が背景にある。多くの国民は、安倍首相を窮地に追い込んだ100万円寄付問題が安倍首相の逆鱗に触れ、17年7月の逮捕・勾留につながったとみている。その一方で、筋の通った理由に基づいて検察が籠池夫妻を逮捕・起訴したと考えられていたが、そうではなかった。
(2)サスティナブル補助金事件の起訴事実
起訴状では、次のように書かれている。
<被告人籠池康博、被告人籠池真美、被告人両名は、森友学園が小学校の校舎の建設に関して、国土交通省の実施するサスティナブル建築物等先導事業「木造先導型」補助金(以下「補助金」)について、だまし取ろうと考え、有限会社キアラ建築研究機関(以下「キアラ」)の松本正ら(藤原工業株藤原社長)と共謀>
そして以下の経過をへて、だまし取ったとしている。
・15年7月17日 森友学園(キアラ申請書作成) 補助金の申請
(実際の設計総額と工事代金より過大な見積書を添付)
・同年9月4日 交付限度額 6194万円4000円 交付採択
・同年10月8日 平成27年度分 5644万8000円 交付決定
・16年3月 4829万8000円 振込
・17年1月 追加815万円振り込み 入金合計5644万8000円
補助金は、申請・仮決定・実績報告(請負契約書)・交付という流れで行われるが、キアラはすべての手続きを進め、担当者のY氏は、手続き書類の内容を籠池氏に見せず申請していたことを、弁護士の尋問で明らかにした。この事実は、ネット上でも大きく取り上げられた。本件の補助金の場合、手続き書類も十数枚に及び、補助金算定のための設計や工事見積書も、事業者でなければ作成は不可能である。実際キアラは、申請段階から違法に補助金を詐取する申請を行い、その帳尻合わせのために過大な工事契約書を藤原工業に依頼し、作成させていたことがわかった。
裁判の結審を前にして大きく浮かび上がったのは、キアラ、藤原工業の両事業者を捜査も逮捕もしていなかったため、検察の犯罪立証は「両事業者は施主である森友の言うとおりにひたすら従った」という虚構に頼るしかなく、真実から遠く離れたものとなっていた。
だまし取った点については、2点が上げられている。
1.実施設計時期を偽った
募集要項に「事業の採択時点ですでに着手している実施設計及び建設工事は、公募の対象にならない」との記載があるにもかかわらず、交付採択(9月4日)前の15年3月には設計着手していたのに、以後に着手したようにして欺いた。
2.設計総額や工事代金を、実際の金額より過大に見積額を申請した。平成27年度分として5644万8000円の交付決定を行わせ、二度にわたって振り込み入金を受けたと罪状を指摘している。