裁判で検察は、森友学園は資金難のため、業者に指示してできるだけ多くの補助金をだまし取ろうと補助金を申請させたと主張し、一切の責任を籠池夫妻に負わせようとしている。それに対して弁護側は、共謀者の業者を見逃すような立件に疑問を呈し、「業者が考えて主導した」という見解を示している。それが、最大の争点となっている。
補助金申請が業者主導になっていたのは、複雑な申請作業は業者に任せるほかはなく、また業者を信頼して任せていたことは、キアラの担当者のY氏が、籠池氏は補助金申請書を見ず表書きに押捺したと公判で答えたことからも明らかである。その場で裁判長も中味を見ず押捺したことを確認した。もしその証言が認められれば、籠池氏は補助金の申請内容を知らなかったにもかかわらず補助金をだまし取ろうとしていたという、論理的に破綻した理由による起訴だったことになる。
起訴状では、籠池夫妻がサスティナブル補助金をだまし取ろうと考えキアラらと共謀したと書かれているが、本件を主導するには補助金制度に通じていることが必要不可欠であろう。建築業者でもない籠池夫妻がこの補助金制度に通じ、だまし取るストーリーを考えることができたのかという疑問も湧く。
(3)新たにわかった事実
この補助金は、単なる新しい構想や計画に出されるものではなく、実際に工事施工することが条件である。そのため補助金の申請名義人は、施主である森友となっていて、補助金は施主に交付される。しかし施主は、設計や工事についてはまったくの素人であり、補助金の申請自体、事業者に頼むほかはない。したがって補助金の申請は、施主と設計、工事事業者との共同作業で行われるが、補助金申請の経過を見ると、キアラが施主に相談なく進めて虚偽の申請を行い、補助金を得るために、その後の報告書や過大な契約書の作成に及んだことが明らかになった。
本来ならば、設計事業者のキアラには直接的な損得がないはずなのに、なぜこのような虚偽の申請を行ったのかを検察は調べなければならなかった。ところが検察は、公的補助金の詐欺という事件に対処しながら、キアラや藤原工業への取り調べには、なぜか蓋をしてしまっていた。そのため、検察の主張は、キアラや藤原工業は単に施主から言われた通りに従ったという認識であった。
そのような杜撰な取り調べは、肝心の補助金詐取の金額特定などにも現われていた。本件の補助金には「調査設計計画費」と「建設工事費」の2種類があった。検察による起訴状では明確に分かれていないが、調査設計計画費の補助金については、補助金申請前に実施設計を終えていたため、設計費の見積もりを水増ししたかどうかにかかわりなく、申請できなかったことになる。一方、建設工事費への補助金は、採択後に建設工事が始まったため申請することが可能である(起訴状では、建設工事についての補助金も採択前に設計をしていれば受領できないかのように書かれている)。
調査設計計画費の場合、申請期限を過ぎていたのに偽って申請したのはキアラである。その上、設計金額を過大に申請したことが補助金額に影響があったとしても、申請期限を過ぎて偽ったことがなければ、過大申告による補助金の交付は不可能であり、罪に問われるのは申請者であるキアラである。申請の中身を知らない籠池夫妻に詐欺罪を問うことができないのは自明である。
建設工事費の補助は、かかり増し分の50%(工事費の3.75%以内)と決められている。かかり増し分というのは、先導的な木造建築にすることによって、従来の工法より余分にかかる費用である。起訴状では、工事代金は14億4000万円であるのに、22億800万円と過大に申請し、2通の契約書をつくったとされている。しかし起訴状では、過大な申告により、本来受け取ることのできる補助金がどれだけ過大に交付され、詐取されたかについて金額の記載はない。
詐取された金額を、補助金で交付された金額全体とすると合計5644万8000円となるが、この交付金には調査設計計画費への補助金(698万円)と建設工事費への補助金が含まれている。調査設計計画費の補助金申請は、籠池夫妻がまったくあずかり知らない。一方、建設工事費は、本来なら受け取ることができた金額と過大に申請して受け取った補助金との差額が、発生した詐取分となる。そして最大の問題は、証人喚問でのキアラのY氏の下記の発言で分かった驚く事実である。
証人尋問では、検察側の証人であるキアラのY氏は、「(採択された交付金)約6200万円はもらえるが、正式には見積書と契約書がいる」「もらうためには、本来の14億4000万円の契約書では減額されるので、約22億円の契約書でなければならない」と語った。
この発言は検察の起訴状の骨格となっていたが、ここで語られているのは、補助金申請時に本来の契約書の14億4000万円ではなく、過大に見積もった約22億円で申請を行い、その申請に基づき補助金を入手するためには本来とは異なる工事契約書をつくらなければならないということである。
申請書を提出したキアラがなんらかの理由で過大請求し、その後、始末のために過大な金額の契約書をつくり、なんらかの詐取が行われたのであれば、キアラや、2通目の契約書作成に協力した藤原工業の役割が、犯罪立件のためには明らかにされる必要がある。ところがこの2業者は起訴状では共謀者としながら、捜査も逮捕もしないというのが検察の方針であった。実際の被害額、詐取金額を特定しようと考えれば、事業者の果たした役割は浮き彫りとなる。そのため詐取金額を起訴状に書かなかったといえる。
元検察官の見解
以上の事実について、概略をお伝えした上で、元法務大臣で元検察官の小川敏夫参議院議員(現参議院副議長)に所見を聞いた。すべての書証に目を通した上での話ではないとしながらも、下記の所見を聞くことができた。
――本件の補助金詐欺について、どのようにとらえればよいか。
小川氏「要点は、国を騙して補助金を詐取したかどうかということ。起訴状からは、
(1) 設計に実施着手していたのに、それを偽り、詐取しようとした
(2) 建設工事費を過大に偽り、詐取した
となっている。(1)の点については、申請時にはそのような申請をしていたとしても、申請したキアラですら、間違って申請したとも考えることができ、騙す意思が不明確である。その際、籠池両被告はそのような申請内容を知らず、したがって騙す意思はなく、この面では犯罪は成立しない。
(2)の点であるが、建設工事費の金額を拡大して申請し、約14億円では出ない補助金が、約22億円にした時に出るのであれば問題となる。しかし約14億円では、どれだけの補助金が出され、約22億円に過大にすることによって、どれだけ出ることになったのかは、明らかになっているのであろうか? 過大にすることによってどれだけ詐取したか明確でない限り、犯罪は成立しない」
――建設工事費を過大に記載したサスティナブル補助金の申請書に印鑑を押したり、2通の契約書に印鑑を押しているが、騙すことを知っていて印鑑を押したことが問われないか。
小川氏「この件も、過大に報告することによって、補助金を増やすことができることが示され、客観的に詐欺行為ができる状況が示される必要がある。押捺だけでは、罪に問われない」
――法人の責任者や社長の印鑑が押捺されていて、責任が問われたり、逆に問われなかったりすることがあるようだが、どこで線引きされるのか。
小川氏「例えば、補助金の申請をしますよと言われ、印鑑を押しただけでは罪にならない。騙すということを知っている必要がある」
――キアラや藤原工業は、起訴状では共謀者と書かれているが、一般的にこの種の事業者と施主の責任はどのように考えるべきか。
小川氏「設計や工事を請け負う事業者は、その道のプロであり、知っていた、知らなかったというレベルは、大きく違う。罪状は重くなる。共謀と言いながら重くなる事業者は、最初から捜査や立件の対象から外しているというのはおかしい」
また、元検察官である郷原信郎氏は、当初から交付を受けた補助金は全額(5644万8000円)を返還しているのに、なぜ逮捕されるのかと疑問を投げかけていた。
“首相反逆罪”を成立させてはいけない
日本には、いつから“首相反逆罪”ができたのであろうか。筆者は改めてそう感じた。森友問題では、国有財産を根拠なく格安に売却した官僚は、誰ひとつ立件されなかった。契約の決裁文書は300カ所にわたって改ざんされ、財務省の報告書では「配下職員」と記載された職員は改ざんを強要されるなかで死に追いやられ、直接強要した職員は英国公使に派遣された。廃棄したはずの公文書は4000ページにもわたり、いまだに財務省は違法に公文書を隠している。
犯罪の容疑がある者を放置し、首相に逆らったものは率先して逮捕・勾留する。これでは法治国家といえるのであろうか。本件でも、事件を解くカギは、補助金の申請・取得を知っているキアラと藤原工業であるが、逮捕どころか捜査もされていない。この検察の捜査について、森友事件の本丸捜査との関係で指摘した小川氏の見方は鋭い。
小川氏は6月、当時立憲民主党常任幹事だったときに『日本崩壊 森友事件黒幕を追う』を電子出版で上梓した。そのなかで、検察は事件に蓋をしていると指摘していた。「犯人を逃がすためのような常軌を外れた捜査」と検察への意見を述べ、「共犯者の逮捕も捜査もせず、決定的証拠の収集回避」の項では、捜査の基本は証拠の収集であるが、強硬捜査には不当捜査との批判があり、今回のような政治的な影響が大きい事件では難しいとしている。しかし、森友事件については「今回の事件はやりやすかった」と述べ、森友の校舎建設に絡み補助金詐欺が行われ、「設計事業者と工事事業者も起訴状では、共謀者して行ったとされていた」という。森友問題の本丸事件である格安払い下げ事件、埋設ごみがあったかどうかに迫るためには、これらの工事関係者からの関係資料が入手できれば、「ごみの撤去費用の積算が不当であることは、判明するに決まっていた」としている。
「こうして起訴事実を固め、財務省、国交省職員の事情聴取を行い、当局職員を背任罪により逮捕する」というのが、小川氏が描く背任罪のシミュレーションだ。そこから、「職員らに指示を与えた者はいないか、そして財務省や国交省を同時に働かせる大きな力がどのように働いたのか」「そこまで検察は解明する職責があった」と言い切っている。本件の籠池夫妻逮捕によって、夫妻に罪を押し付け、事業者を免罪する捜査には、明らかに黒幕への追及を避けるという意図があったのであろう。
今回の籠池夫妻への別件逮捕・勾留は、首相反逆罪による逮捕といってよい。無罪とし、日本の崩壊を食い止めることが裁判所に期待されている。
(文=青木泰/環境ジャーナリスト)