NHK は11月13日、来年の東京オリンピック・パラリンピックに合わせて東京都が、都内公立中学校と高校から6000人のボランティアを募集する計画を立てていると報じた。
NHKの報道によると、都の教育委員会は任意の参加と説明しているにもかかわらず、実際は中学校の場合で1校当たり5人の生徒と引率教員1人などと割り振られており、半強制的に参加を求められているという。
ボランティアには、「大会ボランティア」と「都市ボランティア」がある。大会ボランティアは東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会が主体となり、選手村や大会施設等で大会運営に直接関わるボランティアだ。一方の都市ボランティアは、東京都が主体で観光・交通案内などを中心に活動する。今回の募集は、都市ボランティアに中高生を参加させるものだという。
だが、すでにボランティアの受付は終了し、定員の2倍を上回る約24万人の応募があったと発表されていた。しかも、一部ではすでに研修も始まっている。なぜ、中高生も狩り出す必要があるのだろうか。
Business Journal編集部は東京都教育委員会に、中高生に対してボランティアを募集した意図を聞いた。
「今回、NHKが報道している件は、都のオリパラ準備局が募集した中高生体験ボランティアです。このボランティアでは、本物の五輪ボランティアの方に生徒がついて、3時間から半日程度、仕事ぶりを見学、お手伝いするのが主目的で、報道にあるように本格的なボランティア活動をするものではありません。
募集にあたっては、個人参加になると受付事務が混乱する可能性があるので、学校単位での応募にさせていただいていますが、強制にならないように、生徒と保護者、ご両人の意志を尊重し、自主的な参加になるよう心掛けてほしいと通達しています。具体的には、各区、市町村教委の指導課長に対して文書と口頭で、その旨を説明しています。その際、報道にあるように、参加人数の割り当てなどはまったく行っていません」(東京都教教育庁指導部指導企画課)
炎天下でのボランティア活動、暑さ対策は自己管理
このように都教委では、自主参加を重視し、各学校への人数の割り当てなどは行っていないというが、実際には1校当たり5人ずつ生徒をボランティア活動に参加させることが事実上、決まっているようだ。
「うちの高校では、校長から職員会議で話があって、『オリパラのボラ体験の募集の話がきているけれど、生徒会の生徒と担当教員でいいんじゃないか』という話がありました。会長、副会長、書記、庶務でちょうど5人。そして教員1人。『ちょうどいい』がなんなのか、そもそも人数の割り当てがあったのかは職員会議で明らかにされていませんでしたが、『それが一番スムーズだ』という教員たちの賛成もあってそうなりました」(都立高校男性教諭)
現場では半強制のような動きになっていることに対し、『ブラックボランティア』(角川新書)の著者で、著述家の本間龍氏は強い懸念を示す。
「私が『ブラックボランティア』で指摘したことが実際に起きている。各校に必要人数を“割り当てた”時点で、これはすでにボランティアではなくなり、強制的な“学徒動員”に変質している。都市ボランティアは炎天下の町中で立ちっぱなしになる過酷な状況が予想され、熱中症の危険性も高い。学校側は生徒に現場の過酷さを十分に説明してから、参加の意思を問うべきだ。また、子供たちが熱中症になった場合、その責任が引率教師にのみ課せられないよう、東京都教育委員会は、あらかじめ責任の所在を明らかにすべである」
どのような経緯で各校から5人ずつ参加と決まったのかは定かではないが、生徒たちが本心から望んで参加するのでなければ、もはやそれはボランティアではなく“徴用”である。もちろん、オリンピックを間近に体感できる貴重な機会であるため、ボランティア体験をしたいと望む中高生もいるだろう。そのような生徒たちにチャンスを提供するのは歓迎すべきことだが、決して上から押し付けるようなことがあってはならない。
今夏、オリンピックのテストイベントが行われたが、それに参加したボランティアたちからは、想像以上に過酷で数時間でも体力的に厳しいといった声が上がった。たとえ数時間でも、猛暑のなかで業務に従事するのであれば、なおさら自主的な参加であることが重要だ。しかも、組織委はボランティアに対して「暑さ対策は基本的には自己管理」とも言及しているが、中高生の体調管理などは大人が責任を持つような体制を整えてほしい。
(文=編集部)