桜を見る会の巨額税金支出、財務省が見過ごしか…米国有利の日米FTA交渉の目くらましか
国会議員秘書歴20年以上の神澤志万です。
相変わらず、「桜を見る会」の問題が炎上していますね。記者さんや編集者さんからは「国会を知り尽くしている秘書さん的には『何を今さら』なお話なんですよね?」と聞かれますが、実はそうでもないです。こんなにお金がかかっているとは知りませんでした。
桜を見る会の起源は皇室行事です。明治時代から国際親善を目的として行われていた会を、戦後の1952年に当時の吉田茂首相が内閣総理大臣主催の桜を見る会として始めたのです。阪神・淡路大震災や東日本大震災の発生などで中止した年はありますが、ずっと続いている行事です。
国の予算で行われているのですから、内容が不透明な状態は良くないですよね。例年の桜を見る会の国家予算は1766万円でしたが、安倍晋三首相が主催するようになったこの6年ほどの支出額を見ると、2014年が3005万円で、それから年々増加を続け、19年は5518万円にもなっています。つまり、実際の支出額が予算額の3倍にもなっているのです。これを見るだけでも、あり得ないことが起きているといえます。
一般的に、予算を要求する際は前年度の支出を参考にします。14年に支出額が3005万円だった時点で、通常の感覚なら要求予算額を増やすものです。しかし、19年まで予算額は1766万円のままで実際の支出は増えているのですから、不審に思われても仕方ないでしょう。こんなに大幅に予算オーバーするなんて、プロジェクトの予算管理としては大失敗です。通常なら財務省から大目玉を食らいますし、会計検査院も黙っていません。今回は見過ごしていたということなのでしょうか?
とはいえ、「ここまでヒートアップする話題なのかな?」というのが永田町の住人たちの見方です。一般常識からすれば「何千万円のお金が不透明な使われ方をしているのはおかしい」ということになりますが、ここまでお金がかかってしまっているのは、桜を見る会に呼ばれたい人が多いからだと思いますよ。
通常は招待客は1万人程度ですが、いつの間にか倍近くの約1万8000人になっています。2万人近くを無料で招待するのですから、お金がかかるに決まっていますよね。政権与党の国会議員たちにはゲストを呼べる特権があるので、地元の支持者たちは議員事務所が忖度して招待客リストに名前を載せてくれるのを待っています。
その究極の「醜い形」が、安倍首相の後援会関係者が850名も招待されていた案件です。人数の規模があり得ないですし、本来は「国家に貢献された方」が対象のはずですが、これではほとんど“支援者感謝祭”です。「安倍首相後援会ツアーのイベントのひとつに加えられていた」という情報もあり、政治資金規正法や公職選挙法の観点からも追及されると思います。
すでに、桜を見る会の前夜祭の収支が政治団体「安倍晋三後援会」の収支報告書に記載されていなかったことで、政治資金規正法に抵触する恐れも指摘されています。14年には、後援会のツアー料金をめぐって実際の費用と参加者から徴収した費用の差が大きいことが問題になり、小渕優子経済産業大臣が辞任したこともありました。
二階幹事長の「配慮は当然」発言が火に油
メディアで問題視されるようになると、招待客リストの選定基準を見直すとか、規模を縮小して予算内に収まるようにするなどの対応もなく、菅義偉官房長官がいきなり「来年は中止」と発表したのもまずかったですね。これにより、「やっぱり問題が山積みだから逃げたんじゃないか」と、ますます炎上してしまいました。
とりあえず目の前の問題点を排除して、危機を乗り切ろうとしているのかもしれませんね。今は安倍政権のイメージが悪くなっているので、仮に解散総選挙をしても不利になるでしょうからね。
一方、野党は「うまくいけば安倍総理退陣までもっていける」と息巻いていますが、そう簡単ではないと思います。民主党政権時代、そういう「特権」があると知った与党議員たちは、こぞって自分の後援会幹部を招待客リストに押し込んでもらっていました。そのため、今回の問題を追及すれば、共産党を除く野党にとっては“ブーメラン”になりかねません。
ちなみに、この話題が炎上した理由のひとつに、自民党の二階俊博幹事長の「選挙区のみなさんに配慮するのは当然だ」「問題になるようなことはあるのか」という、まったく悪びれない発言があったと思います。自民党は長年の習慣として、支持者から「桜を見る会に参加させてほしい」という要望を受けてきていたでしょうから、「それのどこが悪いんだ」という二階幹事長のコメントは、永田町的には正論に思われます。
でも、これって世間の常識からはものすごく外れていますよね。今回の議論をきっかけに、一部の特権的な支持者からの要望を忖度しなくてもいいようにできればいいのですが……。
桜を見る会より重要な日米貿易協定の中身
桜を見る会の問題がどうでもいいとは言いませんが、正直、国会はそんなことよりも重要な課題をたくさん抱えています。日米貿易協定のように、外交だけでなく日本の経済に大打撃を与えるかもしれない重要な法案が審議されている真っ最中なんです。
そんな大事な時期に桜を見る会に世間の注目が集まることで、「日米FTA交渉をアメリカ有利に進める作戦に、まんまとハマっているのではないか」と心配になってしまいます。
日米貿易協定承認案は11月15日に衆議院の外務委員会で可決され、19日の本会議で衆議院を通過する見込みですが、これには「拙速」との批判もあります。
たとえば、元経済産業省貿易管理部長の細川昌彦中部大学特任教授は10月29日付「日経ビジネスオンライン」記事で、日米交渉での関税引き下げがEUなどから批判を受けていることを挙げ、「現実論として譲歩自体は仕方ないが、今回の協定は越えてはならない一線を越えている。もう少し時間をかけてでも、一線を越えない範囲にとどめる努力をすべきではなかったか」と指摘しています。
日本の農産物を守るためにも、もっと議論してほしいです。桜を見る会の問題が大事でないとは言いませんが、貿易のほうがもっともっと大事ですよ。ほかにも、憲法改正手続きや教員の労働時間などの問題でも議論が求められています。今は臨時国会でただでさえ会期が短いので、早くきちんとした議論が行われてほしいです。
(文=神澤志万/国会議員秘書)
『国会女子の忖度日記:議員秘書は、今日もイバラの道をゆく』 あの自民党女性議員の「このハゲーーッ!!」どころじゃない。ブラック企業も驚く労働環境にいる国会議員秘書の叫びを聞いて下さい。議員の傲慢、セクハラ、後援者の仰天陳情、議員のスキャンダル潰し、命懸けの選挙の裏、お局秘書のイジメ……知られざる仕事内容から苦境の数々まで20年以上永田町で働く現役女性政策秘書が書きました。人間関係の厳戒地帯で生き抜いてきた処世術は一般にも使えるはず。全編4コマまんが付き、辛さがよくわかります。