「イスラム教徒は入国拒否」「メキシコ移民はレイプ魔」など、人種差別的な発言を連発し、世界中で批判の的となっている米大統領候補のドナルド・トランプ氏。韓国では先日、そのトランプ氏顔負けの人種差別発言をしたとして、ある政治家が叩かれている。
その人物とは、韓国与党・セヌリ党代表のキム・ムソン氏。キム氏はソウルで行われたセヌリ党青年委員会主催の「愛の練炭配達ボランティア活動」に参加したのだが、共に奉仕活動に参加していたナイジェリア出身の留学生に、次のような差別発言を言い放った。
「君の顔の色は、練炭の色と一緒だな」
キム氏は、留学生の肌の色と練炭の色を比較し、なんの前触れもなく冗談まじりに差別的な発言をしたのだが、当然、周囲の人々はドン引き。差別の事実を知った人物のひとり、ロイター通信のソウル特派員ジェームズ・ピアソン氏は、SNSで厳しく非難の声を上げた。18日には、自身のSNS上で議員の発言を紹介し、「本当に情けない」「トランプみたいだ」とコメントした。
発言が広まり、問題視する声が強くなると、キム氏は謝罪した。自身のSNSに「現場で親しみの表現として言ったつもりだったが、心の傷になるということを考慮できなかった。言い訳の余地がない」と書き込み、事態の収拾を図ろうとしている。
ちなみに今回の件で、AFP通信は「S Korean presidential hopeful says “sorry” for racist joke(韓国の有力大統領候補が人種差別ジョークを謝罪)」という見出しで関連記事を配信した。つまり、キム氏を“有力大統領候補”として紹介している。
しかし、韓国メディアや評論家は、与党を代表する大物政治家の人種差別的発言を簡単には許さなそうだ。韓国の有名な文化評論家のひとり、チン・ジュングォン氏は、「オバマ大統領と会ったときにも、そんな親しみを込めた冗談が言えるのか」と皮肉っている。また、韓国放送通信大学のペク・ヨンギョン教授も「発言がなされた日は、ちょうど国際移民デーだった。韓国社会に人種差別が蔓延しているが、そのことに無感覚なのは憂慮すべき」という趣旨の記事をメディアに投稿した。インターネット上でも「国の威信を汚した。辞任しろ」とキム氏に厳しい声が多く浴びせられている。
韓国では最近、世界のほかの国々と同じように、反移民の気勢が徐々に高まりつつある。というのも、「移民が増えたため、韓国人労働者の労働条件が悪くなった」という説が、説得力を持って受け入れられ始めているからだ。潜在的な葛藤が顕在化しつつある中、韓国政府は多文化主義を広報しつつ、社会における摩擦を減らそうと四苦八苦している。今回の差別的な発言は、そんなセンシティブな状況のなかで飛び出したものだった。
さすがに、トランプ氏ほど過激な“人種差別主義者”が支持を集めるアメリカのような状況には至っていないが、政治家の人種差別的発言が韓国内でどう受け入れられるか、今少し見守る必要がありそうだ。
(取材・文=河鐘基)