ところで、この道の駅のグランドオープンは、今年10月1日の予定だった。地元の町民向けに先行開業(プレオープン)したのは9月1日のこと。そのおよそ1週間後、睦沢町と道の駅は台風15号の直撃を受けていた。防災拠点が間一髪で間に合った格好である。
しかし、今回の台風被害に遭遇したことで、同時に課題も見えてきたのだという。前出のCHIBA むつざわエナジー・松田さんに聞いた。
「この道の駅は、防災拠点にもなる『道の駅』として整備したものです。発電機があったので電気はすぐに復旧したんですが、この一帯では通信も同時に途絶えてしまった。被災して24時間くらいまでは携帯電話が使えていたんですが、NTTドコモやソフトバンクなどの基地局まで停電したことで、スマホが使えなくなったんです」
――スマホに充電することはできても……。
「充電できても、通信や電話ができない。電気というインフラだけ生きていても、できることは限られる、ということですね。あの時は皆、『通信が使えないのは本当に不便だ』と、口々に言っていました。もちろん、被災直後に現地入りしていた私のスマホも使えませんでした」
――それこそ、通信の基地局がこの道の駅のエリア内にあれば。
「ここのエリア内に基地局を置けるかどうかはともかく、通信の基地局に自家発電の電気を送れるように整備されていれば、より良かったなと思いますね。現状では、この敷地内というか、一体で整備したところにしか、電気を送れないんです。エリアの中であれば私たちが整備した電線なので自由に使えますが、エリアの外に電気を送るには東京電力の許可が必要になります。エリア外の電線は東電さんの持ち物なので。エリアの外に電気を送るためには、自前で電線を引くしかないんですね」
「広域ブラックアウト」を避けるために
睦沢町では停電から復旧した後も、携帯電話がしばらく使えなかった。復旧したのは、停電の解消から1日以上経過した後のことだ。電話会社によっても通信の回復状況は異なっていたようである。NTTドコモとソフトバンクはなかなか繋がらなかったのに対し、auは無事で、NTTドコモとソフトバンクのユーザーだった町民達は、こぞってauユーザーから携帯電話を借りて、急ぎの用件を済ませていたのだという。
また、停電は「スーパー道の駅」の弱点も浮かび上がらせていた。天然ガスを掘削する現場でも電気を使っているため、停電が10日以上長引くと、ガスコジェネ発電用のガスタンクが空になる恐れがあることが判明したのだ。つまり、ガスのプラントにも自家発電の備えがないと、長期の停電には耐えられない。そのため、周囲の設備も含めて強化することも大きな課題だという。現在の日本では、1週間も停電することがないよう備えておくのが常識と思われてきた。今回の千葉県で発生したような2週間に及ぶ長期間の停電は、そもそも想定してこなかったのである。
それでも睦沢町では、「道の駅むつざわ つどいの郷」が防災拠点や復興作業の拠点としての役目を、100%ではないにせよ果たしていた。「CHIBA むつざわエナジー」を手掛けるパシフィックパワー株式会社では、福島県相馬市でも同様のマイクログリッド事業を展開しているのだという。
今はまだ夢物語なのかもしれないが、もし千葉県の全域に「スーパー道の駅」を整備できれば、「全町ブラックアウト」に陥った地域を隣の地域やそのまた隣の地域が助けることで、リスクを分散化し、県全域が同時に深刻なダメージを受ける事態を避けることができるかもしれない。CHIBA むつざわエナジーの松田さんは語る。
「睦沢町のガスコジェネは特殊なものですが、結局はその現地でつくれる電源にはどんなものが考えられるのか、ということだと思うんです。天然ガスが出る睦沢町ではできることでも、例えば福島県の相馬市では同じことはできません。
基本は、その土地にある電源を活かす、ということです。例えば、地熱を使えるところでは地熱を使う。太陽光発電のコストが下がってくれば、もちろんそれも使う。電力会社の系統電力と比べ、平常時のコストがすごく高ければ、そのシステムはなかなか成り立たないと思う。非常時のためだけに整備するわけにもいかないからです。でも、平常時のコストがある程度、競争できるようになってくると、おっしゃるようなリスク回避ができる可能性はありますね」
そんな未来が出現することを願うばかりだ。
(文=明石昇二郎/ルポライター)