活動中断に追い込まれた「K-POPとAKB48のコラボ」
「K-POPとAKB48のコラボ」として誕生した「IZ*ONE(アイズワン)」は、AKB48グループの日本人3人を含む日韓合同女性アイドルグループだ。韓国の公開オーディション番組「プロデュース48」を通じて結成され、2018年10月に韓国、19年2月に日本でデビューした。日本でのデビューシングルをプロデュースしたのは、秋元康氏だ。同年4月には2ndミニアルバムが韓国で初週売上記録を更新、7月にはMVがYouTubeで1億回再生を記録するなど、日韓双方で高い人気を集めていた。
ところが昨年10月29日に1stフルアルバムのティーザーを公開したのを最後に、その活動にストップがかかった。11月11日リリース予定だったアルバムは、発売延期。それと前後してライブやイベントがキャンセルされたばかりか、12月4日には日本公式ファンサイトのコンテンツ更新と新規入会の受付停止が告げられた。
理由はほかでもない、韓国で今年7月からK-POP業界を揺るがしている「八百長」騒動だ。
スターを続々輩出したオーディション番組の暗部
IZ*ONEを生んだ「プロデュース48」は、韓国の音楽専門チャンネルMnetが制作する公開オーディション番組「PRODUCE 101」シリーズの第3シーズンにあたる。同シリーズはアイドル練習生などがサバイバル形式で絞り込まれ、最終選抜に残った十数名にグループとしてデビューする機会が与えられる内容。参加者の当落を決めるのは、番組内で「国民プロデューサー」と呼ばれる一般視聴者の投票だ。
16年放送の第1シーズンでは11人組女性グループ「I.O.I」、翌17年の第2シーズンでは男性11人組の「Wanna One」が、それぞれ101名の参加者から選抜されてデビューを飾った。18年の第3シーズンは、製作陣に秋元氏が参加。AKB48グループの39名を含む計96名から12人組のIZ*ONEが選抜される過程が、日韓で同時放送された。
そして昨年放送の第4シーズン「プロデュース X 101」では、11人組男性グループ「X1」が8月にデビュー。だがX1はその当初から「八百長」疑惑が騒がれ、やはり11月に入って活動が中断していた。
数学的に検証された得票数の「八百長」
「八百長」騒動に火がついたのは、第4シーズンの最終順位が発表された昨年7月19日。番組を見ていた熱心な視聴者が、得票数の人為的な規則性をネットで指摘したのが発端だ。上位20人の得票数についてその前後との差分を求めてみたところ、同じ数字の繰り返しがいくつも見つかったという。さらに検証を行った結果、20人のうち19人の得票数が一定の計算式の解とぴったり一致することが突き止められた。
メディアの「やらせ」疑惑は韓国でも珍しくないが、「PRODUCE 101」は視聴者による投票の一部が運営者に収益として入る有料のSNSで行われており、金銭問題も絡んでいる。こうした点を問題視する視聴者たちはネットで「真相究明委員会」を結成し、番組制作者を詐欺及び偽計業務妨害の疑いで告訴。偽計業務妨害は、放送局が企画したアイドル発掘・育成という業務が番組制作者の詐欺行為で妨害された、という趣旨だ。またMnetの運営企業であるCJ E&Mも、自らを被害者として警察に捜査を依頼した。
捜査の結果、警察は11月6日に番組の総括プロデューサーK氏とディレクターA氏を業務妨害、詐欺、背任収財、請託禁止法違反の疑いで逮捕。また番組及び芸能プロダクション関係者8人が、同月に送検された。
全4シリーズで4年越しの「八百長」が発覚
一連の捜査から、「PRODUCE 101」の全4シリーズにわたってオーディションの「八百長」が行われていた実態が浮かび上がっている。
第1シーズンでは参加者を61人に絞り込む過程で得票数を操作し、上位の2人を脱落者2人と入れ替えた。続く17年の第2シーズンでも同様に下位と上位の入れ替えを複数回行い、そのうち1人がWanna Oneメンバーとしてデビューしたとされている。
「八百長」はAKB48とコラボした18年の第3シーズン、「プロデュース48」でいっそう大胆になる。逮捕されたプロデューサーらは中間投票の結果が気に入らず、3次選抜された20人のうちデビューさせる12人を事前に選定。最終選抜の順位や得票数を任意に操作して、視聴者を欺いた。
第4シーズンでも、過去にデビュー歴のある参加者を落とすなど順位の入れ替えがたびたび行われた。デビューするメンバーを決める最終選考でもやはり、順位や得票数の操作が行われたことが明らかになっている。
巨大化したK-POPビジネスの不正はどこまで明らかになるか
逮捕されたディレクターA氏はまた、芸能事務所から47回にわたって計4684万ウォン(約440万円)相当の接待を受けたとの疑いも持たれている。番組及び芸能プロダクション関係者らはこのように共謀して、被害者であるCJ E&Mのアイドル選抜・育成業務を妨害した、というのが検察の判断だ。摘発された関係者らは第1~第2シーズンの成功を受けて、次も成果を上げなくてはというプレッシャーがあったとも伝えられている。
だが現地では、CJ E&Mの関与を疑う報道もある。第2シーズンでデビューしたWanna Oneは1年半の活動で1000億ウォン(約94億円)を稼ぎ出し、CJ E&Mはその25%を手にしていた。第3シーズンからは、CJ E&Mの取り分が50%になっていたという。大手紙「朝鮮日報」は一介のディレクターによる犯行という見方に否定的な業界内部の声を紹介しつつ、「放送局と芸能プロダクションが共同で巨大ビジネスを手がける『プロデュース101』は、本質的に癒着疑惑と無縁でない」との見解を示した。
そのCJ ENMは昨年12月30日に代表取締役が会見を行い、「失望を抱かせた」ことについて謝罪。同時にIZ*ONE及びX1が早く活動再開できるよう、全面的に支援すると明らかにした。また両グループを通じた利益を放棄、K-POP発展のための基金を創設するとも述べている。
だがX1はメンバー個々の所属事務所間で今後に関する話し合いがまとまらず、今年1月6日になって解散を発表。一方のIZ*ONEは、いまのところ活動再開に向けて動きつつあるようだ。
大きな期待と注目を集めてデビューしながら、異例の事態に見舞われたIZ*ONEとX1。番組制作者の八百長がアイドル志望の若者に与えた傷は、どこまで広がっていくのだろうか。
(文=高月靖/ジャーナリスト)