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1時間で1軒廃業…韓国チキン店、大量の失業中高年の墓場化 歪んだ韓国社会の縮図

文=高月靖/ジャーナリスト
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「gettyimages」より

60代女性が焼身自殺を図ったワケ

 今年7月23日、韓国・ソウル市で60代の女性が焼身自殺を図る事件があった。場所は、江南区の19階建てビル。女性はガソリンとライターを持って屋上まで侵入した後、通報で駆けつけた警官に取り押さえられた。

 このビルには、宅配フライドチキンチェーンのフランチャイズ本社が入居している。女性は2016年から、夫とともにその加盟店を営んでいた。ところが昨年5~8月、夫婦が相次いで配達中の事故で負傷。そこで快復するまでチキン店の休業を本部に願い出たところ、廃業するよう通告されたという。女性は抗議したが聞き入れられず、究極の手段に打って出たわけだ。

 便利な間食やおつまみとして、韓国でますます人気が高まっている宅配チキン――。だがこの事件が示唆するように、背景には根の深い韓国社会の歪みが横たわっている。

チキン店の市場規模は約5兆ウォン

 韓国のチキン店は通りに面した1階で客席を構える店、あるいは雑居ビルの地下や2~3階で宅配だけを専門とする店など、形態はさまざまだ。ただしいずれも、フランチャイズのチェーン店が主流。揚げ方やソースにそれぞれ変化をつけたメニューを用意し、宅配を頼むとボックスに入れて運んでくる。単価は日本円でおおむね1000円台後半から、という設定だ。

 韓国の宅配チキン市場は大きい。ある調査によると、直近1カ月以内にチキンの宅配を頼んだと答えた韓国人は、10人中7人に上ったという。またチキン店の総売上は、2011年の約2兆4000億ウォン(約2202億円)から2017年には約5兆ウォン(約4588億円)に倍増している。

 だが人気に反して、チキン店オーナーの商売は厳しい。主な理由は、過当競争だ。

 韓国のチキン店の数は、今年2月時点で8万7000軒。韓国人約600人あたり1軒の割合だ。日本のコンビニが約2300人あたり1軒なので、韓国のチキン店はその4倍近い密度でひしめき合っていることになる。

早期退職者がチキン店にすがる事情

 過当競争の背景にあるのは、退職年齢の低さと高い失業率だ。今年7月の韓国統計庁発表によると、韓国の平均退職年齢は49.4歳。退職理由は「事業不振、操業中断、休・廃業」が最多の33%だ。退職者のうち定年退職は、7.1%にすぎない。また今年6月時点の失業率は、日本の2.3%に対して韓国は4.0%に上る。

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