安倍一強体制の下、法令順守が足蹴にされ、国家の運営が安倍首相の「私的な」判断のもとで行われ、それを糊塗するための公文書改ざん・廃棄が当たり前になってきている。
それが、司法にも影響を与えていることが伺える判決が、昨年9月27日に東京地裁で下された。ごみの住民訴訟で官製談合を容認する判決が下され、戦後築き上げてきた自治体のルールを破壊する内容を含まれていた。行政実務を知っている被告側が主張できないような非常識な見解を裁判長が示し、被告がそれを容認するかたちとなり、司法が官製談合をチェックせず、覆い隠す実態が浮かび上がった。
ごみの中間処理を行う一部事務組合、柳泉園組合(東久留米市、西東京市、清瀬市で構成。所在地は東久留米市)は、耐用年数30年の焼却炉を建設からわずか15年で、延命化の必要性すら確かめずに大規模改修工事の計画を立て、現在の焼却炉を建設したメーカーの関連業者に改修工事を委託した。本件訴訟は、この長期包括契約の中止を求めた住民訴訟である。
住民訴訟を進めるうちに、実質随意契約、つまり官製談合の実態が明らかになった。裁判の過程では裁判長が3人も交代した挙句、鎌野真敬裁判長は非常識な見解の下で住民側を敗訴とし、官製談合を是としてしまった。そこには、安倍一強体制の下での司法の腐敗を見て取ることができる。判決では、裁判官が自治体における行政実務の基本ルールを知らず、無頓着であることが露呈した。
筆者は長く廃棄物問題にかかわってきているが、この判決は柳泉園組合に多額の無駄な出費を行わせるだけでなく、判決が判例として独り歩きをすれば、自治体におけるごみ処理や施設建設、会計処理などのルールは破壊される。原告団長の阿部洋二氏は「あまりに非常識で、この判決自体を高裁で問い直したい」とし、原告の一人である森輝雄西東京市議は「司法試験の前に、他人の話の読解力を問うことが必要では」と語る。原告団はただちに控訴を決めて、12月末には控訴理由書を提出した。3月以降控訴審が始まる。
本件訴訟で問題になった官制談合
この裁判の最大の論点は、入札は一般競争入札で行われたが、実質的には随意契約であり、契約先はあらかじめ決まっている官製談合が行われたのではないかという点にあった。大規模改修工事の必要性や計画、契約内容を明らかにして議会の審議に掛けるという一連の手続きにおいて、瑕疵・欠陥がなかったのかという点も論点となった。
焼却炉の建設は建設業法上の建設工事にあたり、委託契約ではなく請負契約の形態を取らなければならない。委託契約ならば人員の手配などのみだが、請負契約ならば発注元である行政側が設計図書や仕様書を用意し、希望する工事内容を受注企業にあらかじめ示す必要がある。それをしないで受注企業任せにしてしまうのは違法である。
本件訴訟で原告である住民が中止を求めている長期契約は、15年間にわたり毎年約10億円も支出するという内容だが、税金を分担する柳泉組合の構成市の市民には一切説明されず進められてきた。さらに地方自治法、建設業法、廃棄物処理法、不当競争防止法などに抵触しているほか、柳泉園組合の条例にも違反している。契約がそのまま履行されれば税金の無駄遣いで巨額の損失を受けるとして、柳泉園組合の構成3市の住民らが住民監査請求を行い、同組合管理者の並木克己氏を被告として訴えていた。
柳泉園組合は当初、本件契約を長期包括委託契約であり、同組合がこれまで行ってきた事業のほとんどすべてを包括的に、かつ15年の長期にわたって民間委託すると説明した。いわゆる公設民営化の一環で、本来なら約200億円弱かかるこの事業が2割安くなり、150億円あまりで済むという説明であった。議員もそのように市民に説明していた。ところが契約が始まっても柳泉園組合の職員は、これまで通り約40名のままであり、委託先企業の職員が6~7名が派遣されてきた。人員は民営化によって増加するので、単なる委託事業であれば、安くなる理由がない。調べていくと、この計画は「大規模改修工事」が費用の面でも過半を占めていたことがわかった。
柳泉園組合は、この工事を単年度ごとで契約するよりも、一括契約にすれば安くなると説明したが、なぜ大規模改修工事計画を前面に出さず、長期包括委託契約を装ったのか、疑問は残った。
工事の必要性を調査せずに工事計画
本件契約予定額である約150億円の過半を占めていたのは大規模改修工事であり、ほぼ建て替えに匹敵する基幹部分の取り換えを含む大工事であった。そして原告による情報公開請求の結果、柳泉園組合は工事の必要性の調査を行わずに工事計画を進めていたことがわかった。
柳泉園組合の現在の焼却炉は、2000年に住友重機械工業株式会社(以下「住重」)が建設した。建設時、同組合は耐用年数は30年だと住民に説明していたが、建設から15年経過した時点で大規模改修工事が必要とし、2017年から開始する工事計画を進めたのである。本来耐用年数が30年なのに15年経過時点で工事が必要となれば、組合はその責任を住重に問い、なんらかのペナルティを求めるべきだ。しかし組合は焼却炉の検査・調査すらせず、責任問題も曖昧にした。
なぜこのような事態が起きたのか。原告団の調査の結果、今回の大規模改修工事の入札や契約にかかわった焼却炉メーカーは、すべて住重系列企業であることがわかった。競争入札に応札したのは株式会社住重環境エンジニアリング(以下、エンジニアリング)で、契約締結したのが株式会社住友重機械エンバイロメント(以下、エンバイロメント)で、両社は住重の子会社である。一般的に焼却炉が建設されると、その運転管理やメンテナンスは建設したメーカーの関連会社が担い、発注元とメーカーの間で癒着関係が出来る傾向がある。柳泉園組合では、エンジニアリングが運転管理や定期点検工事を担っていた。大規模改修工事をめぐり焼却炉を建設した企業の系列企業で事業をたらいまわしにする行為は厳しくチェックされるべきである。
非常識な判決
柳泉園組合の焼却炉は3炉あるが、毎年定期点検し1炉当たり約1億円をかけて補修整備をしていた。このような定期点検を行っている焼却施設では、例えば東京23区清掃組合の焼却炉の耐用年数は25年から30年である。ところが一審判決では、被告の提出した環境省の説明文を引用し、「稼働後、15年以上を経過すると老朽化が顕著になる。設備の更新を含む延命化対策をしない場合、補償費は増加する」とした上で、大規模改修工事への予算支出をよしとする見解を示した。環境省の見解はあくまで一般論であり、個々の自治体の焼却炉は、建設事業者、工事の流れ、その後の運転管理の状態によって耐久年数も異なり、工事の必要性は検査・調査しなければわからない。
どこの自治体も不要不急の工事にお金をつぎ込む余裕はなく、100億円前後もかかるような工事は検査・調査の上で計画を立て、工事の必要性を確認した上で工事計画を立てている。環境省の見解でも、検査・調査をして工事の必要性を判断するように示されていた。そうしなければ、地方自治法2条13項の「最小の経費で最大の効率を上げる」にも背くことになる。ところが本件では、裁判官の非常識な一般論によって、調査もせず工事に入って良しとしたのである。
官製談合を見逃す判決
地方自治法には、自治体と事業者の間でなれ合いによる官製談合などの不正な取引・契約が行われないように、さまざまな規制があり、チェックするようになっている。毎年の会計年度予算は議会の議決を経なければならず、個別の予算案も法令や条例の定めに基づき議会に諮る必要がある。議会が官製談合の疑いのある案件をチェックする役割を負っている。
また、地方自治法上、入札は一般競争入札が基本原則であり、公明正大に進めることとなっている。したがって本件裁判でも、議会承認や入札審査の手続きが法令に基づき進められたかを裁判所がチェックすれば、官製談合の有無をあぶり出して正しく判断することができたであろう。
ところが、実際には、以上述べてきたとおり、柳泉園組合には議会審査の手続きと入札の面で大きな瑕疵・欠陥があった。組合はこの計画を大規模改修工事とはせず「長期包括委託契約」と名付け、組合の事務処理事業を民間企業に委託する契約と合わせ一括して取り扱い、全体として委託契約を装うことにした。その理由は、委託契約であれば巨額の契約でも議会の承認を取ることは法令上必要なくなるからである。建設業法では、大規模改修工事は請負契約として契約することが規定されている。
また1億5000万円以上の請負契約であれば、柳泉園組合の条例上、議会確認事項となる。組合は、長期包括委託契約を装うことで議会のチェックを避けたともいえる。実際に裁判が提起されると、組合が顧問弁護士から指摘を受け、議会に諮らなかったことが瑕疵にあたるとして担当助役などが処分を受け、入札審査から半年後に議会に諮るという失態を演じた。本件契約を請負契約に切り替えるのであれば入札からやり直すべきだが、委託契約のままにされた。
判決では、「委託契約の中に請負契約的な性質を含むものであっても」「工事内容や工事金額を記載することはない」とされた。これは明らかに建設業法の定めを逸脱している。また、判決では、大規模改修工事が過半を占める契約を委託契約として取り扱った間違いに言及していない。建設業法を順守する視点からすれば、工事契約と事務委託契約は別の契約として分けて扱う必要があった。もし一つの契約として扱うとすれば、請負契約として取り扱い、委託契約を付け加えるように主従を反対にする必要があった。
これでは裁判所は法の番人ではなく、官製談合にお墨付きを与える機関に成り下がっていることになる。すでに原告は約50ページにわたる控訴理由書を提出し、控訴審に臨んでいる。住民による行政監視は、住民監査請求や住民訴訟を通じて行われるが、司法のチェックも必要な段階にきているといえる。
(文=青木泰/環境ジャーナリスト)