マイナス成長に入った日本経済の冷え込みが続く。消費増税に加え新型コロナウイルス感染拡大の影響で、主に国内総生産(GDP)の過半を占める個人消費が急落しているためだ。背景に家計(庶民の暮らし)を軽視した政府の経済政策の誤作動がある。
政府が2月に発表した昨年10~12月期のGDPは実質で年率7.1%減と大幅なマイナス成長となり、市場を驚かせた。増税前、2兆円規模の経済対策で備えたにもかかわらず、前回2014年の消費増税直後の7.4%減以来の大きなマイナス幅となったからだ。設備投資も、中国経済の急縮小などによる先行き不安から年率4.6%減と大幅に落ちた。
経済の実情は、家計やインバウンド(海外からの旅行)消費を中心に思いのほか悪いのだ。しかし、政府の2月の月例経済報告を見ると、景気は「緩やかに回復している」と脳天気な判断。経済の生きた実態を政府がつかんでいない現状を見せつけた。
日本経済は1月からさらに悪化した。新型コロナウイルスの感染拡大が経済活動に深刻な打撃を加えている。発生源・中国での生産活動と貿易、インバウンド消費への負の影響に始まり、2月には日本国内での感染拡大が止まらなくなった。1~3月期も大幅なマイナス経済成長必至、との観測がもっぱらだ。
本来なら、緊急の感染防止対策と同時に経済対策が講じられなければならない。感染防止対策は人の集まりや出歩きを制限するため、消費を減らし経済活動を低下させる。そこで、感染防止対策には同時に経済対策が必須となる。少なくとも、防止策には経済活動を低下させない具体的対策が求められる。
ところが今回、安倍晋三首相が発表した「一律休校」措置は準備なき決定で、下降する経済をさらに下押しするのは必至となった。
安倍首相は2月27日、唐突に全国の小中高校、特別支援学校に対し、3月2日から春休みまで一律休校を要請した。だが、突然の一律休校の影響をもろに受ける、学童保育や働く親への補償など具体的な対策については語らずじまい。「政治判断」だとし、「私の責任で万全の対応を取る」との決意表明をするに留まった。
驚くべきは、加藤勝信厚生労働大臣や萩生田光一文部科学大臣も、首相の一律休校の決定を発表当日になるまで知らされなかったことだ。しかも、有識者に一律休校の是非について意見を聞くこともせず、独断専行したのだ。
首相は「責任は自分が取る」旨を繰り返したが、混乱や社会的悪影響が広範に出るのは不可避だ。首相は具体的に、どういうふうに責任を取るというのか。実際には現場の責任者が発生する問題の責任を取ることになるのだから、無責任な発言というほかない。
決定プロセスを見れば、民主主義の手続きを無視した独裁者的暴走と言ってもよいだろう。一律休校要請は、子どもと子育て中の親への想像力と配慮をまったく欠いていた。共働きや1人親世帯では、子どもが小学生低学年の場合はとりわけ深刻だ。
家に放っておくわけにはいかない。多くの親は出勤できずに、学校に代わって子どもを世話し、勉強も見なければならない。子どもは学校という、先生や友だちと一緒の居場所を失い、心が不安定になる。親ともども新しい家庭生活を始めることになるが、そのあり方を決めて互いに慣れるまで、相当苦労しなければならない。
親のほうは企業から休暇を取れるか、出勤できない日の賃金や休業手当を受け取れるか、という心配が生じる。非正規雇用だったりすれば、雇用を打ち切られ、無収入に陥る可能性もある。
職が看護師や介護士のような医療関係者の場合は、出勤できなくなり、患者の診療や世話にも支障を来たす。現に、すでに休校措置を決めた北海道では看護師の2割が出勤できずに、医療体制に穴を開けた。
親の多くは学童を活用しようと考えるだろうが、人員面から「終日対応」には限界がある。こうした困窮ケースの具体的対策は後回しにして、安倍首相は自分の一存で突っ走ったのだ。
日本政府は台湾の対応を見習うべき
ここで、台湾教育部(教育省)の2月20日発表の学校対策を紹介しておこう。柔軟で繊細な内容だ。
学級閉鎖や休校措置の基準について、高校以下では「教員か生徒1人の感染が確認されたら学級閉鎖」「2人以上が感染したら休校」とし、校内で感染者が出た場合は運動会などの大型イベントを中止する、と決めた。
大学では、学生1人の感染が確認された場合、受講するすべての授業が休講となる。教員が感染した場合も、担当授業はすべて休講。2人以上の感染者が出たら休校にする。政府は、この台湾の先例を見習い、弊害が多い一律休校措置を柔軟型対応に変えると同時に、不況の深まりを防ぐ経済対策に本腰を入れるべきである。
(文=北沢栄/ジャーナリスト)