熊本・大分を襲った大地震で、熊本刑務所(明石雅己所長)が施設の一部を開放し、周辺に住む被災者を受け入れた。その数は最も多い時で240人。ライフラインが復旧した後は、自宅の片付けが済んだ人から帰宅し、現在は16人が残っている。
法務省は、東日本大震災の時には、宮城県石巻市の避難所に職員を派遣し、被災者支援を行ったが、刑務所が避難所を開設するのは今回が初めて。しかし、避難所運営は初めてとは思えないほど迅速で適確だった。多くの住宅が全半壊している地域とは異なり、比較的短期の避難生活で済んだ人が大半だったとはいえ、災害時に避難所を設営する自治体が学ぶところも大きいのではないか。
良好な避難所設営を支えた9つの取り組み
私が気づいたところをいくつか列挙してみる。
(1)自立した備え
刑務所は、災害時に備え受刑者と職員の7日分の食糧と水を備蓄することになっている。毛布などの備蓄もある。被災者にはそれを提供した。
さらに、高性能の浄水装置など、災害時に必要な設備を用意している。熊本刑務所の地下水は飲用に適するが、念のために浄水装置を通して提供した。自宅に残った近隣住民のなかにも、水や食糧だけをもらいに来た人がいる。
そのほか、やはり備品の大型水槽をシャッター付きのガレージに設置し、刑務所のボイラーで沸かしたお湯をためて行水ができるようにした。被災者は4月20日からは、こうして風呂を使うことができるようになった。その後、簡易シャワールームを購入して設置し、水槽は湯船として活用された。
(2)責任者と役割分担、指示系統が明確
法務省は福岡、広島、大阪、名古屋の矯正管区から応援職員を派遣。27人の職員が2週間にわたって被災者対応に当たった。責任者には、矯正局成人矯正課から派遣された大竹宏明企画官が就いた。避難所は主に、こうした応援職員で維持された。
熊本刑務所は、受刑者の居住スペースにはほとんど被害はなかったが、作業場の壁が崩れたり、木工細工の機械を設置した床が壊れたり、さまざまな備品が落ちたりして、作業ができなくなった。同刑務所職員は、受刑者の対応や刑務所の作業場の復旧などに努め、可能なところから作業を再開させた。
(3)要援護者への細やかな気配り
避難者のなかには、寝たきりの高齢者もいた。刑務所の医務室にあるベッドを道場の一角に移して提供した。しかし、排泄の介助の際に家族が気を遣っているのを見て、職員待機所に移ってもらい、人の目が気にならないように配慮した。
そのほか、足が悪い高齢者などのために、水のペットボトルが入った段ボール箱を利用してベッドをつくった。また、道場のトイレは和式しかなかったため、据え置き型の洋式便座を買ってきて設置した。
テントを立てて女性の更衣室をつくるなど、女性のプライバシーにも気を遣った。