(4)トラブル防止対策
門限や減灯の時刻、ゴミの出し方、喫煙場所などのルールをはじめに決めて、それを伝えた。被災者同士のトラブルが起きないよう、何か気になることがあったら直接言うのではなく、職員に伝えてもらうようにした。
避難所担当職員はLINEでグループを作成し、気がついたことを書き込み、さらに夜に全員が集まってミーティングを行って職員全員が情報を共有できるようにした。
(5)適切なロジスティクス(後方支援)
食糧や水の補給など全国の矯正施設から送られてきた物資は、直接熊本刑務所に届けるのではなく佐賀少年刑務所に集積し、そこから必要な分だけを熊本に運んだ。全国各地からの支援物資が集中した熊本市などでは受け入れ体制が追いつかず、物資を積んだトラックが何時間も待機しなければならない事態もあったが、刑務所の避難所にはスムーズな物資補給がなされた。
(6)名簿づくりで適確な被災者把握と不審者防止
避難所に滞在する被災者には、所定の用紙に世帯ごとに氏名や住所などを記載してもらった。記載は任意だが、名簿を作成することは被災者の正確な把握につながる一方、不審者が入り込むことの防止にも役立った。
(7)体調維持と公平性の確保
刑務所の医師が避難所を毎日巡回したほか、少年鑑別所の心理技官(臨床心理士)が心の相談を担当。食中毒防止のため、レトルト食品や缶詰などを中心とした食事にした。被災者には同じものが同じだけ配られるように注意した。また、トイレなどの消毒をこまめに行った。
(8)被災者の帰宅支援
日中、大人たちが家の片付けに行く間、子どもたちを避難所で面倒みた。それによって、親たちは片付けに集中できた。また、熊本刑務所のサッカーチームのメンバーが、休日に高齢者世帯の片付けを手伝った。
(9)ペットにも対応
しつけの行き届いた小型犬と一緒に避難した被災者がいたが、「衛生管理は、責任を持ってきちんとやってください」と念押ししたうえで、犬が被災者と一緒に寝られるようにした。
とにかく疲れを癒やしてもらうという基本方針
しばらくすると、被災者同士で話し合って掃除をしたり、一足早く自宅に戻ったマッサージ師が、ボランティアでマッサージをしに来るなど、被災者同士の助け合いも始まった。初めは過密だった道場だが、少しスペースに余裕ができた頃、熊本刑務所の剣道部が管区の大会に優勝して全国大会に出ることになっていると知った被災者たちは、自発的に場所を移動して剣道場をあけて練習が再開できるようにするなど、被災者も施設に協力したという。
なんのマニュアルもないまま、こうした良好な避難所設営が実現できた理由について、大竹企画官はこう語る。
「普段から公平性を重視して、不満が出そうなことは先回りして対応するような仕事をしているので、トラブルが起きないよう早めの対応ができたのかもしれない。この地域は比較的被害が少なく、ライフラインの復旧も早いという不幸中の幸いもあった。
『避難所をあまり居心地よくすると、なかなか出ていかなくなる』という人がいるが、それは違うと思った。できるだけ環境をよくして、皆さんにとにかく疲れを癒やしてもらうことが第一という基本方針で臨んだ。そうすることで、皆さんが元気を出して前を向いていけるように、早く家の布団で休めるように支援することを心がけた」
多くの災害現場を見てきた日本災害復興学会副会長で減災・復興支援機構理事長の木村拓郎氏は、「この基本方針は、避難所を運営するうえで一番大事な点。リーダーがそれをよくわかっていて、職員も意思統一できたことがよかった。自治体の支援に頼らず、自立を前提にした自己完結型の備えができていたことも奏功した」と評価する。