ブレグジットが世界経済に与える影響
足許の世界経済を俯瞰すると、中国経済の減速が進む中、米国も徐々に景気循環のピークを迎える可能性がある。そこに、英国、EUの分裂懸念が加わることは、多くの投資家をリスク回避に向かわせるだろう。
注意が必要なのは、政治の動向だ。英国の国民投票から得られるインプリケーションは、世論が目先の不満解消などの感情論に流れ、政治が自国優先に走りやすいということだ。つまり、主要国間の協調は得づらい。
米国の大統領選挙をみても、当初は予想されていなかったドナルド・トランプ氏が共和党の候補に残っている。その主張は単純明快で、米国第一、である。欧州では、ギリシャ支援への不満を背景に、各国でEUに対して懐疑的な考えを持つ右派の政党が支持を集めている。そして、英国の国民投票の結果、EU離脱を求める動きが連鎖反応のように広がる恐れがある。
すでに、主要国の財政・金融政策は追加的な発動余地がないほどにまで手を打ち尽くした状況にある。今後のリスクに対応するためには、緊急時に各国の政府・中銀が協力して市場に流動性を供給するなど、協調が不可欠だ。協調がまとまらない場合、世界経済のリスク耐性は低下するだろう。
世界経済は過剰な供給能力を抱え、一方で需要は低迷している。その状況を、主要国の低金利、あるいはマイナス金利政策や量的緩和などの強力な金融政策で糊塗しているのが実状だ。リスクオフが進めば、わが国のように為替レートの変動に大きく影響される国は、厳しい状況に直面する恐れがある。
リーマンショック後の世界経済を支えた中国経済が減速する中、米国の景気回復がこれまでの世界経済を支えてきた。だから、中国の減速が進んでも、危機的状況は回避できた。もし、米中経済の減速懸念、政治リスクに端を発するEUの分裂懸念が同時に高まれば、世界経済はかつて経験したことのない厳しい状況に直面する可能性がある。英国のEU離脱決定は、未曾有の景気後退への門扉を開いたことと考えたほうがよいだろう。
(文=真壁昭夫/信州大学経法学部教授)