5月30日に岡山県内で、神戸山口組池田組若頭が六代目山口組大同会の若頭代行に発砲され、重傷を負った事件が発生してから1週間以上が経過したが、今のところ六代目山口組サイドによるさらなる攻撃や、神戸山口組サイドによる報復とおぼしき事件は起きていない。
ただ、銃撃事件後しばらくしてSNSで拡散された発砲の状況を収めた動画については、業界関係者の間でも、さながら映画のワンシーンのようだったとする声が囁かれ、大きな話題となっている
「拡散された動画は、池田組の本部事務所に備えつけられていた防犯カメラによる映像でした。池田組本部から少し離れた駐車場に車を停めた大同会の若頭代行が歩いてきたところから始まり、別の駐車場で雑談していた池田組若頭に近づいて、拳銃を構えます。するととっさに池田組若頭は、大同会若頭代行に立ち向かっていくのです。そこで腹部に発砲され転倒するのですが、それでもすぐに立ち上がって、逃げる大同会若頭代を追いかけようとするのです。その後、カメラは切り替わり、大同会若頭代行を別の池田組組員らが追いかけ、駐車していた車の運転席に若頭代行が乗り込むと、さらに別の池田組組員が強引に助手席に乗り込み、そのまま車は発進。結局、助手席の池田組組員は池田組本部前で車から突き落とされるのですが、その一部始終が映っている動画でした。あそこまで攻防の一部始終が映っている動画を目にできるとは、いくらSNSで拡散されやすい状況になったとはいえ珍しいのではないでしょうか」(長年、ヤクザ取材を続ける記者)
確かに、事務所や関係者施設、その周辺などで発砲事件が発生すると、その直後から防犯カメラに残された映像が出回ることは、昨今の特徴ともいえるかもしれない。だが、そうした事情を考えたとしても、今回の岡山県内での発砲事件の模様はあまりにも鮮明に残されており、貴重な動画といえるだろう。
取り締まり強化も六代目山口組上層部は「通常運営」
前述の通り、この事件に端を発したさらなる攻撃や報復はないものの、すかさず動きを見せたところもあった。分裂抗争の抑止力となるべき警察当局だ。
事件から6日目となる6月5日に、両組織の衝突が一般市民に被害を与える可能性があるとして、岡山県岡山市の池田組本部や鳥取県米子市にある大同会事務所など関連施設3個所に暴力団対策法に基づき使用制限をかけたのである。
「分裂抗争にかかわる事件が起きれば、こうして事務所や関連施設をすぐに使用できなくさせる措置を、今後も当局ではとっていくだろう。それでも事件が起きる時には起きるし、それが組織運営にまで影響を及ぼして組員の動きを封じ込めているかといえば、そうではない。使用できなくなった主要施設外で活動するので、逆に組織内部の動きをわかりにくくさせている面だってある。
また、あまり大きな声では言えないが、事務所内での当番などが免除されるので、内心ホッとしている組員がいるのも実情だ。これは、事務所の使用制限をだけを受けてのものではない。コロナ問題が勃発し、密集を防ぐために泊まり込みの当番などを一時的に取りやめた事務所だってある。正味な話、その間は身体の自由がきくようになるため、喜んでいる現場の組員もいるのは確かだ。なにしろ分裂問題にしてもコロナ問題にしても現在は非常事態で、これが永続的に続くというものでもない。いざという時に対応できる体制さえ取れていれば、そこまでの支障はない」(某組織幹部)
組織運営上、大きな支障はない――それを象徴するかのように、六代目山口組は確かに通常通りの機能を果たしているといえる出来事があった。
岡山県と鳥取県で新たな事務所使用制限がかけられた日、六代目山口組の事実上の最高指揮官、髙山清司若頭らは、稲川会総裁の誕生日を祝うために、東京・六本木にある稲川会本部を何事もなかったかのように訪れ、待ち構えていた報道陣の前に堂々と姿を見せているのだ。
同日にはほかにも、六代目山口組の中核組織、三代目弘道会の若頭である野内組野内正博組長が、川崎市に拠点を構える稲川会山川一家を尋ねているし、福岡県に本拠地を置く独立組織・福博会の代替わりには、同組の後見を務める髙山清司若頭の名代として、六代目山口組若頭補佐である三代目弘道会・竹内照明会長が出席しているである。このように、六代目山口組の上層部では、最近は日常的な組織運営が行われていることがうかがえるのだ。
岡山での事件後、今日までの静寂ぶりを見ると、六代目山口組と神戸山口組の対立は、警察当局の動向を考慮しつつ、今後しばらくは再び膠着状態に突入すると見る向きもある。だが、抗争事件が起きる時はなんの前触れもなく発生してきているのも事実。時としてマシンガンが使用されるような事件すら突如起きてきたのだ。
それらを踏まえると、明日何が起きても決しておかしくはない状況が続いているという考えを捨てるべきではないのだろう。日本最大組織、六代目山口組が分裂状態にあるというのは、それくらい尋常ではないことなのだから。
(文=沖田臥竜/作家)