毎日、夜遅くまで残業しているのに給料が一向に増えず、会社に不満を言ったところ、こんなセリフが返ってきたという経験はないだろうか。
「うちの会社は残業代が固定で給料に含まれているから、その分働いてもらわないといけない」
一体、固定残業代というものは、どのような制度なのだろうか。正しく理解している人は多くないだろう。同制度は判例でも認められており、導入すること自体は合法だ。しかし、どのような目的で導入されているのだろうか。労働問題に詳しい浅野英之弁護士は、次のように話す。
「割増賃金の算出をする手間が省けたり、労働者のダラダラ残業の防止につながるといった一定のメリットはあるものの、これらのメリットは固定残業代制度以外の方法によっても実現できます」
固定残業代という名称から、割り増しの残業代が出ないにもかかわらず、会社の指示に従って勤務時間外も働き続けなければならないような印象がある。しかし、そもそも残業代は、働いた時間に応じて通常の賃金より割り増しされた額が支払われるはずだ。
浅野弁護士は、「固定残業代制度を導入したからといって、会社が労働者に対して支払う残業代の総額を減らす効果はない」と言う。あくまで、「残業をしなくても、一定時間分の残業代を固定で支払う」ことを約束しているだけなのだ。つまり、「一定時間」を超えて残業した分については、残業代を支払わなければならない。
「固定残業代制度は、労働法に違反して労働者を使い捨てるブラック企業が導入する典型的な制度です。なぜなら、ブラック企業は労働者をできる限り低賃金で酷使する必要があるため、サービス残業を頻発させます。そこで、一定の残業代を与えておけば、それ以上に残業代を支払わなくても争ってくる労働者が少ないと見越しているのです。また、労働者が労働法の理解に乏しければ、『固定残業代制度の場合、それ以上の残業代を請求することはできない』と誤解するだろうと期待しているのです」(同)
つまり、労働者に正確な知識がないことを利用して、「残業代を請求できない」と思い込ませるために導入している企業があるというのである。訴えられない限り残業代を支払わないといった姿勢で導入している企業にしてみれば、大幅な残業代の削減が可能になるというのが現実だ。