文部科学省を中核に、政府内でも「新たな奨学金制度の創設」に対する取り組みが加速している。なぜ現状で新たな奨学金制度の創設が必要なのかをみると、日本の大学生が置かれた厳しい現実が明らかになる。文部科学省の「所得連動返還型奨学金制度有識者会議」資料を中心にその実態を取り上げてみた。
今どきの大学生といえば、学業はそっちのけで遊び中心の生活を送っているというイメージが強い。先般のように、慶應大学生による婦女暴行事件などがあると、どうしても大学生が学業に専念するというイメージは弱くなってしまう。
しかし、真面目に学業に専念しようとする大学生にとってもそれができるのは、現在の社会環境は非常に厳しく、自宅住まいか、親が裕福で十分な仕送りを受けている大学生に限られるようだ。
OECD(経済協力開発機構)の調査によると、日本の高等教育に対する公財政支出(2009年)は対GDP比で0.5%にとどまっており、OECD諸国の中で最下位の低さ。個人への支出を含めた同支出の対GDP比は0.8%と若干増加するが、それでも最下位だ。日本の高等教育機関は公財政支出が相対的に低く、財政的に保護者や学生からの学費に依拠するところが大きい傾向にあり、国際的にみて高い学費水準となっているという。
こうした政府の教育に対する意識の低さを反映して、日本の大学生の置かれた経済環境は相当に厳しいものとなっている。幼稚園から大学卒業までにかかる平均的な教育費は、すべてが国公立でも約800万円、すべてが私立だと約2300万円と推計されている。特に、地方から東京の私立大学に通う場合には、下宿・アパート代や食費などの生活費が大きな経済的負担となる。一方、1997年に467万3000円だった会社員の平均給与は年々減少し、2014年には415万円にまで大きく減少している。
親の所得状況を反映し、学生の生活費に対する家庭からの給付(いわゆる仕送り)は、02年度の155万7000円(月額約13万円)をピークに、14年度には119万4000円(月額約9万9000円)にまで減少した。
所得格差=学歴格差
当然、親の所得状況により大学への進学状況には格差が生まれ、親の年収が400万円以下の子供の大学進学率は27.8%にとどまる一方で、年収1000万円以上では60%以上の子供が大学に進学するなど、教育機会に大きな差ができている。