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黒川前検事長の賭け麻雀事件、“4人組”を一般市民らが告発…事件の根底に記者クラブの存在

文=林克明/ジャーナリスト
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告発人らは記者会見で、記者を実名で告発した理由を述べた(6月11日)

 次から次へとさまざまな出来事や事件が起き、人々の関心はほかの話題に移っていく。こうした人間の習性に期待して、事件の関係者は自然鎮火を望んでいるだろうが、そうはいかない。

 今年5月に発覚した、黒川弘務・東京高検検事長(辞職)と産経新聞記者2名、朝日新聞社員1名が、3年間にわたり月に2~3回の賭けマージャンをしていた事件である。

 不起訴(起訴猶予)になったこの事件を、消滅させてはならないと筆者に思わせたのは、YouTube動画『カメラを止めるな! 7月28日(前編)』(塩田康一鹿児島県知事の就任記者会見をめぐる県政記者クラブ「青潮会」とフリーランスとの戦いをスマホのカメラで撮り続けたドキュメンタリー。特に1時間56分ころから)を視聴したからである。

 編集なしの生々しい動画は、記者クラブはジャーナリスト集団というよりも、権力機構・統治機構の一部であることを示している。そして、日本特有の「記者クラブ制度」が今回の黒川4人組賭博事件の土台になっている。

黒川弘務検事長ら賭博4人組を告発…記者会見の最大の目的とは?

 黒川氏がマージャン賭博事件で検事長を辞任したのが5月22日。

 およそ3週間後の6月11日、「税金私物化を許さない市民の会」の呼びかけで48人が、賭博に参加した元東京高検検事長・黒川弘務氏、産経新聞記者・大竹直樹氏、産経新聞記者・河合龍一氏、朝日新聞企画室・大島大輔氏の4名を東京地方検察庁に告発した。

 

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告発状本文

 同日、東京・霞が関の裁判所建物内にある司法記者クラブで、告発人らが記者会見に臨んだ。会見の最大の目的は、常習マージャン賭博に参加していた新聞記者および新聞社社員の実名を公表するためである。

 告発状によると、犯罪事実は次のとおり。

「被告発人である黒川弘務、同大竹直樹、同河合龍一及び同大島大輔は、平成29年ごろから令和2年5月ころまでの間、毎月数回程度の頻度で、東京都中央区にある被告発人大竹直樹の自宅マンション等において、金銭を掛けて麻雀を行い、もって常習として賭博をしたものである」

 法務省、朝日新聞社、産経新聞社がそれぞれ内部調査の結果を発表しており、まとめると次のようになる。

(1)4人組は3年前から月に2~3回集まっていた(法務省調査では「月1~2回の賭けマージャン」)
(2)緊急事態宣言期間中に7回集まり、少なくとも4回は賭けマージャンをしていた。
(3)毎回、数千円から2万円程度の金銭のやりとりをしていた。
(4)新聞社のハイヤーで黒川氏を送り、車中で取材していた。

 帰宅する黒川氏をハイヤーで、しかも無償で送り車内で「取材」したということだが、そこにもし捜査情報の漏洩が含まれていれば、ハイヤーの無料提供の見返りと解される余地がある。その場合、国家公務員法違反になる可能性が高い。

 問題が発覚しても、黒川元検事長への処分は「訓告」だけで5900万円の退職金を給付され、実質的には“お咎めなし”。政府がきちんとした対応をとらないなら、一般人が行動を起こさなければならないと、48人が告発したのである。

なぜ一般人は実名で、記者は仮名なのか

 4人組の賭けマージャン事件については、各メディアが報じた。だが、権力の中心に近い人物と3年にもわたり親密な関係を保っていた記者3人は、なぜ実名を出されず仮名で報じられたのだろうか。

 黒川氏に限らず、ほかの公務員の常習賭博が発覚すれば実名報道されるだろうし、誤って交通事故を起こしてしまい、相手方が死亡したとなると、最近ではドライバーが逮捕される。こういうときも一般人の氏名が報道される。

 そのほかにも、些細な事件で一般人が実名報道されるのは珍しくない。

 6月11日、司法記者クラブで行われた記者会見で、「税金私物化を許さない市民の会」共同代表の田中正道氏は、次のように述べた(声がよく出ず、告発人の1人である白水幹久氏が代読した。

「黒川東京高検検事長の常習賭博問題では、すでにいくつかの個人や団体が告発しているが、どの告発状を見ても、黒川氏の共犯3記者の氏名は<A、B、C>とされ、実名が公表されていない。過去の似たような事件では、記者氏名不詳の場合、刑が軽くなる傾向があり、公平ではない。公平の視点からも、私たちは実名で告発した。職務をまっとうすべく真摯に報道している方々には心から敬意を表するが、是は是、非は非で臨みたい」(要旨)

 同じく共同代表の武内聡氏は、こう述べた。

「常習賭博は、黒川氏だけでなく4人で成立するので、公平にすべきだと思う。さらに、新聞労連が公にした『新聞人の良心宣言』(1997年)を重視した。そこには、記者と権力との関係、メディアはなんのためにあるのかが書かれている。(実名告発は)報道のみなさんにも一緒に考えていただきたいという趣旨でもある」

「取材対象に食い込む、懐に飛び込む」予想された記者擁護発言

 権力と新聞(記者)の関係はどうあるべきかという問題とともに、一般市民との関係もある。一般人であれば実名報道される可能性がかなり高い事件で、なぜ新聞記者は特別扱いなのか。

 また、取材方法をめぐる権力との関係についても、主に新聞記者経験者から予想どおりの反応が出ているので面白い。

「取材対象の懐に入り込むのが重要」
「ここまで食い込んでいることに感服」
「あらゆる手段を使って権力内部の情報を集めなければならない」
このような言葉が羅列されている。

 確かに、今回の3人が、たとえば検察の腐敗などを徹底的に暴き出す記事を書き続けていれば、このような理屈も成り立つ場合もあるだろう。

 しかし現実社会は、権力と癒着して権力にとって都合の良い新聞記事やテレビ報道であふれている。事実を無視して一般論や理想論、あるいは特殊な例を言うのは、まったく無意味どころか状況を悪化させることになる。

 このようなマスコミ人の反応を批判的に書いているのが、月刊『紙の爆弾』(8月号)におけるジャーナリト浅野健一氏の記事だ。浅野氏は、元共同通信記者で今回の告発人の1人である。

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7月10日、東京地検は賭けマージャンにかかわった4人を不起訴処分にした

 なお、この刑事告発の結果は7月10日、不起訴処分になった。それに対し「税金私物化を許さない市民の会」共同代表の田中正道氏が7月14日、「不起訴処分理由告知書交付申請書」を提出。つまり、なぜ不起訴なのかをたずねた。

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告発人は、不起訴処分の理由開示を求めた

 その申請書に対し東京地検は7月22日、不起訴処分の理由を「起訴猶予」とする文書を発した。起訴猶予とは、「犯罪の事実はあるが、立件して裁判にかけるほどのことはない」という意味合いである。

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4人は起訴猶予であることを東京地検は告知した

 マージャン賭博仮名報道を目にしていたところ、記事冒頭に書いた鹿児島県政記者クラブの所属員たちが、人間バリケードをつくってフリーランス記者の入場を実力阻止したYouTube動画を閲覧し、あらためてこの記事を書くべきだと筆者は考えた。

記者クラブ廃止の一択

 県庁をはじめ中央官庁など、一等地に「記者クラブ」と称する広い部屋がある。新聞社や放送局などの企業が、なんの法的根拠もなく「占拠」しているわけだ。かつてはそこで使う電話代なども役所もちだった。

 そして、各クラブに職員がいる。それは各役所に所属する公務員が民間企業のマスコミ記者クラブのために働いている。

 どうみても、特定企業に対する便宜供与であり、記者クラブ自体が税金の私物化となるだろう。そのクラブでは役所側が報道してほしい内容を記者に伝え、記者はそのとおりにしている。権力を監視すべき報道機関や言論機関が、権力機構・統治機構の一部になっているのだ。

 仮にきちんとした報道をしたり、良心的な記者がいたとしても、記者クラブ制度というシステムからは逃れられない。個人の問題ではないのだ。

 黒川前検事長と3記者の常習賭博事件の根底に、記者クラブ制度があるのは間違いない。ならば、記者クラブを廃止するしかないだろう。ところが、メディア内部とOB・OGは、記者クラブに好意的である。

 したがって内部改革はほとんど不可能だから、外圧を使う必要がある。それは、“新聞購読停止”と“テレビを見ないこと”である。

 記者クラブを廃止せずに、取材対象に深く入り込み、密着し、どんな手段をとっても情報を引き出す、などと言っているかぎりは、100年たとうが1000年たとうが、事態は改善されないであろう。
(文=林克明/ジャーナリスト)

林克明/ジャーナリスト

林克明/ジャーナリスト

1960年長野市生まれ。業界誌記者を経て週刊現代記者。1995年1月からモスクワに移りチェチェン戦争を取材、96年12月帰国。第一作『カフカスの小さな国』で小学館ノンフィクション賞優秀賞受賞。『ジャーナリストの誕生』で週刊金曜日ルポルタージュ大賞受賞。

 最新刊『ロシア・チェチェン戦争の628日~ウクライナ侵攻の原点を探る』(清談社Publico)、『増補版 プーチン政権の闇~チェチェンからウクライナへ』(高文研)
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