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「相馬勝の国際情勢インテリジェンス」

トランプ米国、国際的に孤立で中国台頭の可能性…日本を「利己的で米国を圧迫」と批判

文=相馬勝/ジャーナリスト
トランプ米国、国際的に孤立で中国台頭の可能性…日本を「利己的で米国を圧迫」と批判の画像1写真:ロイター/アフロ

 20日(日本時間:21日未明)、ドナルド・トランプ米大統領の就任式が終了したが、相変わらず「米国第一主義」「米国優先」を掲げ、「米国人を雇え」「米国製品を買え」と叫んでおり、世界最大の超大国の最高指導者の就任演説としては、お世辞にも品位が感じられなかった。報道によると、31歳の気鋭のスピーチライターと2人きりで演説の草案を練ったというが、両手をふるって熱弁しているのはわかるが、あまり滑舌の良くないだみ声で「新たな1000年が始まる」などと言われても、その根拠が薄弱だけに、心に響かなかったというのが正直なところだ。

 筆者は年末から年始にかけて、トランプ大統領が41歳のときに書いた『トランプ自伝』(筑摩書房)をじっくりと読んだが、印象に残ったのは訳者あとがきのワンセンテンスだった。それは、当時の妻だったイヴァナさんの言葉だ。

「あと10年経ってもドナルドはまだ51歳です。そう際限なくカジノを所有したりビルを建てたりするわけにはいきませんから、いずれドナルドは他の分野に目を向けるでしょう。それは政治かもしれないし、何か別のものかもしれません。大統領選挙へ出馬することも絶対ないとは言いきれません」

 この言葉通り、トランプ氏は大統領選に出馬し、当選してしまった。さすがにトランプ氏と長年生活していたイヴァナさんだけあって慧眼だったが、就任式で右横にいた妻はスロベニア出身の元モデルのメラニアさんだったのは想定外だったに違いない。

本人も当選すると思っていなかった可能性

 それはともかく、この自伝を読むと、トランプ氏の性格がよくわかる。日本語の文庫版のほか、原本の英文版も合わせて読んだので、構成のつくり方や英文の文章から、本の大半は共著者のジャーナリストが書いたと推定できるが、ところどころに、トランプ氏の本音が透けて見えるような気がする。たとえば、次のような部分だ。

「宣伝の最後の仕上げははったりである。人々の夢をかきたてるのだ。人は自分では大きく考えないかもしれないが、大きく考える人を見ると興奮する。だからある程度の誇張は望ましい。(中略)私はこれを真実の誇張と呼ぶ。これは罪のないホラであり、きわめて効果的な宣伝方法なのである」

「これから述べる数々の取引(ビジネス)は、結局のところどんな意味をもつかと問われると、返事に窮する。ただそれをやっている間楽しかったと答えるしかない」

「けれども“ほどほど”というのは性に合わない」

「取引はもちろんこれからもするつもりだ。それも大きな取引を着々とまとめていくだろう」

 これらの5つの文章をつなぎ合わせていくと、トランプ氏は70近い年齢で、本職のビジネス以外に政治に興味をもち、それも上下両院議員のような“ほどほど”ではなく、米国の最高指導者である大統領の選挙に出馬。「はったり」をかまして、人々を興奮させて、自分を売り込む。それはなんのためにするのかというと、「それをやっている間楽しむ」ためだった――、ということになる。

 だとすると、トランプ氏は大統領選出馬当初、自分でも本当に大統領に当選するとは思っていなかったのではないか。出馬当初は泡沫候補扱いされて、「罪のないホラ」を繰り出すうちに、それが民衆に受けて、「楽しんで」いるうちに、あれよあれよという間に大統領になってしまった――、というのが本当のところではないか。

 これは筆者の予想であり、正しくはないかもしれないが、仮にそうだとすれば、トランプ氏の今後の政治運営は極めて厳しくなることが容易に想像できる。

 なぜならば、トランプ氏には政治家としても、外交官としても、軍人としても、それらの経験がまったくないからである。トランプ氏が唯一、深く経験しているのがビジネスの世界であり、それがゆえに、トランプ氏は「米国経済の再生」を最優先に訴えているのだといえよう。

“ビジネス政治”

 それがはっきり表れたのが、大統領当選後の昨年12月21日、トランプ氏が航空機大手ボーイングとロッキード・マーティンの両最高経営責任者(CEO)と行った会談である。終了後、記者団に「コストダウンしていく」と述べ、大統領専用機「エアフォースワン」や次期ステルス戦闘機「F35」の政府調達費の引き下げを進める意向を示したことだ。大統領が専用機や戦闘機を値切ったなどという話は聞いたことがない。異例中の異例の出来事だ。両CEOも驚いたに違いないが、両者ともトランプ氏の意向を受けて値下げするようだと伝えられている。

 さらに外交でも、米国の雇用が中国によって脅かされているとして、中国を為替操作国に認定し、中国からの輸入品について45%の関税をかけると明言。日本についても、駐留米軍経費の上乗せを求めるなど、その思考方法はビジネスマンのそれである。

 アジア全体の平和維持、安全保障上の考慮がまったく欠けており、日本という同盟国をたんにビジネスの相手としかみていない。さすがに就任演説では、イスラム過激派以外は、他の国々のことは触れていないが、今後、経済問題に絡んで、ことあるごとに日本や中国、あるいはメキシコなどを批判することが予想される。

 それがトランプ流の“ビジネス外交”であり、“ビジネス政治”というべきものだ。海外諸国は今後、ビジネス外交とビジネス政治に翻弄されることが予想される。

 大胆に予測すれば、その揚げ句、トランプ大統領は他の国々の首脳からの信頼を失い、米国は国際的に孤立し、漂流してしまうことも考えられる。強いアメリカの衰退であり、アジアにおいては経済・軍事大国である中国の台頭が予想されよう。

 最後に、『トランプ自伝』から日本のことについて触れた部分を抜粋したい。

「日本人はめったに笑顔を見せないし、まじめ一点張りなので取引をしていても楽しくない。(中略)残念なのは、日本が何十年もの間、主として利己的な貿易政策でアメリカを圧迫することによって、富を蓄えてきた点だ。アメリカの政治指導者は日本のこのやり方を十分に理解することも、それにうまく対処することもできずにいる」

 トランプ氏が今もこう考えているとしたら、トランプ氏が今後、日本に対してどのような政策を打ち出すかは容易に想像できるだろう。
(文=相馬勝/ジャーナリスト)

相馬勝/ジャーナリスト

相馬勝/ジャーナリスト

1956年、青森県生まれ。東京外国語大学中国学科卒業。産経新聞外信部記者、次長、香港支局長、米ジョージワシントン大学東アジア研究所でフルブライト研究員、米ハーバード大学でニーマン特別ジャーナリズム研究員を経て、2010年6月末で産経新聞社を退社し現在ジャーナリスト。著書は「中国共産党に消された人々」(小学館刊=小学館ノンフィクション大賞優秀賞受賞作品)、「中国軍300万人次の戦争」(講談社)、「ハーバード大学で日本はこう教えられている」(新潮社刊)、「習近平の『反日計画』―中国『機密文書』に記された危険な野望」(小学館刊)など多数。

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