1月16日、岸田文雄外相とケネディ駐日米大使(当時)は、日米地位協定の在日米軍属の範囲を明確にする補足協定に署名し、同補足協定は即日発効した。2016年4月に沖縄県で発生した米軍属の男が日本人女性を暴行殺害した事件を踏まえた再発防止策だ。米大統領選でトランプ氏が勝利し、政権交代とともに日本を去るケネディ大使の“置き土産”となった。
しかし、この補足協定で本当に米軍属の凶悪犯罪が減少するかは、未知数だ。これまでの日米地位協定見直しの歴史は、まさに米軍属の凶悪犯罪の歴史でもある。
まずは、国立国会図書館のレポート「日米地位協定の刑事裁判権規定」から、日米地位協定の歴史について触れてみたい。
日米地位協定とは、「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定」を指す。1960年(昭和35年)に締結・発効されたが、それ以降、米軍属によるさまざまな犯罪が発生しているにもかかわらず、一度も改定されていない。問題が発生するたびに、今回のような運用方法の改善というかたちで済まされている。
同協定でもっとも問題なのは、在日米軍属については米国側に優先的裁判権が与えられること。同協定で刑事裁判権を規定しているのは第17条。その第1項で、米軍当局は米国の軍法に服するすべての者に対する裁判権を有し、日本当局は米軍人、軍属およびその家族が日本国内で犯す犯罪で、日本の法令により罰し得るものについて、裁判権を有することが規定されている。第2項では、一方の国の法令によってのみ罰し得る罪については、その国の当局が専属的裁判権を有することが規定されている。
ただ、裁判権が競合する場合の優先順位は第3項に規定され、(1)専ら米国の財産、安全または米軍構成員等の身体、財産のみに対する罪と、(2)公務執行中の作為または不作為から生ずる罪については、米軍当局が第一次裁判権を持ち、その他の場合について、日本の当局が第一次裁判権を有すると規定されている。
さらに、第5項(C)では、日本が裁判権を行使すべき場合でも、被疑者の身柄が米側にあるときは、日本が公訴を提起するまでの間、米側が身柄を拘束することが規定されている。つまり、日本の警察は、基地外で米軍人等の被疑者を逮捕しない限り、原則として捜査段階では被疑者の身柄を拘束することはできず、日本側が公訴を提起するまでは米軍が身柄の拘束を続けることになる。