米軍の“胸三寸”
それでは、これまで同協定はどのような改善措置が取られてきたのか。
1995年9月、沖縄県で米軍人による少女暴行事件が発生した。これを受け、日米は殺人または強姦という凶悪な犯罪の特定の場合、被疑者の起訴前の身柄引渡しを可能とすることで合意した。この結果、現在まで6件の事件で起訴前の身柄引渡しの要請が行われ、5件で起訴前の身柄引渡しが実現した。残りの1件については、起訴後に身柄が引き渡されている。
01年1月には、沖縄県で米軍人による連続放火事件が発生、95年の合意では放火が含まれておらず、これを契機に「その他の特定の場合」の明確化について、日米間で協議が行われることとなった。
03年5月、沖縄県で婦女暴行致傷事件が発生。04年4月、いかなる犯罪についても、日本政府が個別の事件に重大な関心がある場合には、身柄の引渡しを要請することができることが口頭で確認された。これにより、殺人、強姦以外の犯罪の被疑者でも一応は起訴前の身柄引渡しの対象となったが、実現するか否かは米軍の“胸三寸”で決まる。
特に問題となる米軍人等の公務中の犯罪については、米側が第一次裁判権を有しているが、11年11月には軍属の公務中の犯罪について、米側が公務中の軍属の犯罪を刑事訴追しない場合、日本側が裁判権を行使することについて米側に同意を要請することができるようになった。
そして、今回の補足協定のきっかけとなった16年4月の日本人女性の暴行殺害事件へと続く。今回の補足協定では、軍属の定義を明確化した。軍属の種別は(1)在日米軍の文民、(2)米軍に福利厚生を提供する赤十字職員ら、(3)米軍が契約する請負事業者――など8つに限定した。
もっとも問題となった請負業者については、軍属としての適格性を審査すると規定。高等教育や専門的訓練などを通じて技能・知識を取得した人物や、米国の機密情報を取り扱う資格保持者などの条件を設けた。
しかし、沖縄出身の記者は筆者に対し、次のように語っている。
「補足協定も結局は、米軍の“胸三寸”であることに変わりはない。沖縄県民が求めているのは、日米地位協定を廃止、もしくは抜本的に改正すること。米軍絡みの犯罪に巻き込まれるのは、圧倒的に沖縄県の人間が多い。これは、沖縄県民の願いでもある」
(文=鷲尾香一/ジャーナリスト)