北朝鮮は5月21日、再び弾道ミサイルを発射した。新型中距離弾道ミサイル「北極星2型」(射程約2000km)の発射実験に再び成功したことで、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は、実戦配備に向けて大量生産を指示したとされる。
一連のミサイル発射のなかで、同月14日に発射された「火星12型」は高度2111kmまで上昇し、787km飛行した。これにより、北朝鮮は大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発に成功したか、近く開発可能な能力を示すと見られていた。
また、14日は中国の習近平国家主席が提唱するシルクロード経済圏構想「一帯一路」に関する国際会議が北京で開幕した日であり、「中国のメンツをつぶすミサイル発射」という報道も多かった。
一見、「孤立を深めるだけ」とも取れる北朝鮮のミサイル発射は、何を意図したものなのか? ロシア情勢に詳しい政治学者で筑波大学教授の中村逸郎氏に話を聞いた。
「ミサイルを飛ばしているのは、北朝鮮ではなくてロシアですよ。北朝鮮にあるミサイルのほとんどは、ロシア製です。それに、すでに北朝鮮にロシア兵が入り込んでいる可能性が高い。
ウラジーミル・プーチン大統領は『北朝鮮が核保有国であり続けてもかまわない』と思っているんです。北朝鮮にある40kgのプルトニウムのうち、30kgはロシアが持ち込んだものです。核弾頭1発に必要なのは4~6kgなので、北朝鮮は6発分くらいのプルトニウムを保有しています」(中村氏)
北朝鮮のミサイル発射は、ロシア主導によるものだったというわけだ。
「14日のミサイルが落下したのは、ウラジオストクから約90kmの地点。ウラジオストクといえば、ロシア海軍の太平洋艦隊も原子力空母もいるところです。そんなところにミサイルを落とすなんて、普通に考えれば、ロシアに戦争を仕掛けているようなものじゃないですか。
それに対して、プーチンは滞在中の北京で『ロシアにとって直接的な脅威とは考えていない』と言いました。また、プーチンは一帯一路フォーラムの待ち時間に、迎賓館の備え付けのピアノで『モスクワの窓々』などを弾いた後、『ピアノの音程がずれていたのが残念だった。2本指で弾く私でも、弾くのがとても大変だった』と言ったのです。これは、ピアノを中国に例えて『中国はおんぼろ国家だ。メンテナンスもしっかりできない国だ』という意味です」(同)
“おんぼろ国家”とは、どういうことか?
「『一帯一路なんか、バカじゃないか』ってロシアは大笑いしています。なぜかといえば、今回のフォーラムにはインドが参加していない。インドはカシミールの帰属をめぐってパキスタンと対立しています。そのパキスタンが参加するから、インドはボイコットしたのです。『シルクロード経済圏構想』なのにインドが参加しないというのはあり得ない話。『おんぼろピアノ』というのはそういう意味ですよ。
一帯一路の陸路のほうは、カザフスタンが拠点となります。でも、カザフスタンは旧ソビエト連邦の構成国でした。そのため、ロシアには『あの辺の中央アジアは自分たちのものだ』という意識があります。そんなところを中国が自国の権利拡大のために使うなんて、ロシアとすれば許容できない。中央アジアをめぐって、ロシアと中国は絶対にもめますよ」(同)