指定暴力団・神戸山口組の井上邦雄組長が6月6日、他人名義で携帯電話を購入したとして、兵庫県警に逮捕された。
県警によると、井上容疑者は知人女性と共謀して2013年11月、神戸市灘区の携帯電話販売店において、女性名義で携帯電話を購入した疑いで逮捕したという。
この報道を受けて、インターネット上には、「これが詐欺だとすると、親や夫名義の携帯電話を使っている人たちも違法ではないのか」といった疑問の声が湧き上がった。複数のジャーナリストからも、「実際にどのような法益侵害があったのか」「別件逮捕ではないのか」という指摘が出ている。
弁護士法人ALG&Associates執行役の山岸純弁護士に解説してもらった。
別件逮捕か
–他人名義での携帯電話契約が詐欺罪に当たるか否かの判断基準はどこにあるのでしょうか。
山岸純弁護士(以下、山岸) 簡単にいうと「携帯電話の販売業者」が、「騙された」と思ったかどうかです。
親や夫名義で携帯電話を購入して子や妻が使用している場合、「携帯電話の販売業者」は「契約をした親や夫以外の人が使うとは思っていなかった。騙された」とは思いません。
しかし、反社会勢力関係者ではない人の名義で携帯電話を購入し、暴力団組長が使用している場合、「暴力団組長が使うとは思っていなかった。騙された」となるわけです。
–具体的に、侵害された法益はなんでしょうか。
山岸 反社会勢力関係者が使用すると知っていれば携帯電話を売らなかったわけですから、販売業者には携帯電話1台分の財産的損害が発生しています。これが、「法益侵害」となります。
これを法律的に言うと、「真実を知っていたら取引をしなかったにもかかわらず、真実を告げられず(または虚偽の事実を告げられ)、錯誤に陥り、取引をしてしまった」ものとして、「詐欺罪」が成立することになるわけです。
–では、井上容疑者の知人女性が、自分で使うつもりで契約し、後で譲渡していた場合は「欺いて財物を交付させ」たわけではないので、詐欺罪にならないといえるでしょうか。
山岸 「携帯電話の契約をする時」に、どういう意図があったかにより罪名が変わります。契約時から暴力団組長に使用させるつもりだったなら詐欺罪、契約時は自分で使うつもりだったが後から暴力団組長に使用させようと思ったのであれば携帯電話不正利用防止法違反ということになりそうです。
–ありがとうございました。
報道によると、井上容疑者は「知人が契約した携帯電話を使用していた」と、携帯電話の不正利用の事実を認めているようだが、焦点は知人女性と共謀して詐欺を行ったかどうかといえるだろう。
法曹界からも別件逮捕を疑う声はあがっており、今後の捜査の動きが注目される。
(文=編集部、協力=弁護士法人ALG&Associates執行役・山岸純弁護士)