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「相馬勝の国際情勢インテリジェンス」

香港、民主化活動家が海外へ大量逃亡…国際金融センター機能消滅で中国の一地方都市化か

取材・文=相馬勝/ジャーナリスト
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香港で2014年に起きた民主化要求デモ「雨傘運動」(「Getty Images」より)

 香港では12月2日の公判で、著名な民主化活動家・黄之鋒(ジョシュア・ウォン)氏に禁固刑13カ月半、周庭(アグネス・チョウ)氏に同10カ月の量刑が言い渡された。また、3日には民主化運動の重鎮的な存在で、香港紙・蘋果日報(アップル・デイリー)創業者の黎智英(ジミー・ライ)氏の詐欺罪に関する初公判で、保釈が認められず、裁判官は2021年4月の次回公判までの勾留を決め、黎氏は刑事施設に収監されるなど、政治的な締め付けが強まっている。

 このようななか、政治的な迫害を恐れて、運動の中心にいた活動家たちの香港脱出の動きが顕在化している。11月に立法会(議会)議員を辞任した許智峯氏は12月3日、訪問先のデンマークで、英国への政治亡命を表明。2016年に議員資格を剥奪された活動家の梁頌恒氏もすでに米国に渡ったことが確認されている。

 これ以前にも、今年7月には著名な民主活動家の羅冠聡・前立法会議員が英国に脱出しており、秘密裏に台湾に逃げ込んだ活動家を含め、少なくとも100人以上が香港から逃亡していると伝えられる。

 とくに、許智峯氏の場合、香港在住の父母と妻、息子と娘の家族5人も4日に香港を離れ、英国で許氏と合流しており、家族ぐるみの亡命という極めて珍しいケースだ。香港政府は「法的責任から逃れようとする犯罪者を決して容認しない」と非難しており、その報復措置として、許氏と家族の銀行口座を凍結し、預金していた数百万香港ドル(1香港ドル=13.43円)が引き出せない状況だという。

 亡命を宣言した活動家と家族の預金口座が凍結されたことが明らかになったのは今回が初めて。

 許氏によると、許氏が12月5日にロンドンに到着して家族と合流したあと、銀行口座を確認したところ、すでに凍結措置がなされていた。これらの口座は香港ドル紙幣を発行している香港上海銀行(HSBC)やスタンダード・チャータード銀行、中国銀行(香港)に加えて、香港の大手銀行である恒生(ハンセン)銀行などの香港を代表する複数の大手銀行が含まれているという。

 報道によると、許氏は銀行に連絡してスタッフに問い合わせたところ、「許氏の口座に関しては、特別な制約が課されているが、具体的には言えない」との返事だった。また、香港メディアがHSBCの報道担当者に質したところ、「個人の銀行口座についてはコメントできない」と答えている。香港警察はメディアの問い合わせについて、「個々のケースや報告についてコメントしないが、法的責任から逃れようとする犯罪者の試みを強く非難するのみである」と述べたという。

 このような銀行口座凍結措置は、許氏らのような活動家が海外に逃亡できないようにするための予防措置をみられるが、まさに人権無視的な報復措置といっても過言ではないだろう。

英国海外市民旅券の保有者増加

 この香港当局の法の統治をないがしろにするやり方は香港市民の強い批判を招いており、当局の思惑とは裏腹に、香港市民の海外への移住に拍車をかけているのも事実だ。英メディアによると、英国が香港返還前に発行した英国海外市民(BNO)旅券の保有者は年末に73万3000人に達する可能性がある。2月時点では約35万人だったという。いつでも使えるように旅券の更新手続きをする人が急増したためだとみられるが、さらに約180万人の香港人にBNOを申請する権利があるというだけに、今後も申請者増の動きは加速しそうだ。

 移住先は英国ばかりでなく、台湾、カナダ、オーストラリア、さらに人気が高い米国が挙げられている。日本政府も金融やIT部門の人材が多い香港からの移民受け入れを推進する方針を明らかにしている。今年6月11日の参院予算委員会で、安倍晋三首相(当時)は「香港を含め専門的、技術的分野の外国人材を受け入れてきた。引き続き積極的に推進する」と答えている。また、菅義偉官房長官(同)も同月12日の記者会見で、香港などの高度人材受け入れをめぐり「何ができるか引き続き検討したい」と述べている。

 茂木敏充外相は「中長期的な視点で関係省庁と連携しながら積極的に推進していく」と話している。この動きと一致して、自民党の経済成長戦略本部も12日、東京の金融機能強化を盛り込んだ成長戦略の提言骨子案を示したなかで、香港からの人材受け入れを視野に入れた方針を示している。

 冒頭の黄氏や氏、黎氏らの収監や許氏一家への超法規的な報復措置といった政治的迫害としかいいようがないケースが増えれば増えるほど、香港から諸外国に移住する人々は後を立たず、香港の国際金融センターとしての機能は消滅し、最終的に中国共産党に忠誠を誓う人々だけが集まる、単なる中国の一地方都市になり下がる可能性も否定できないだろう。

(取材・文=相馬勝/ジャーナリスト)

相馬勝/ジャーナリスト

相馬勝/ジャーナリスト

1956年、青森県生まれ。東京外国語大学中国学科卒業。産経新聞外信部記者、次長、香港支局長、米ジョージワシントン大学東アジア研究所でフルブライト研究員、米ハーバード大学でニーマン特別ジャーナリズム研究員を経て、2010年6月末で産経新聞社を退社し現在ジャーナリスト。著書は「中国共産党に消された人々」(小学館刊=小学館ノンフィクション大賞優秀賞受賞作品)、「中国軍300万人次の戦争」(講談社)、「ハーバード大学で日本はこう教えられている」(新潮社刊)、「習近平の『反日計画』―中国『機密文書』に記された危険な野望」(小学館刊)など多数。

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