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“操り人形”バイデン政権で中国との“ズブズブ関係”が復活…尖閣諸島は本当に守られるのか?

文=宮崎正弘/評論家、ジャーナリスト
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勝利宣言を行うジョー・バイデン前副大統領(写真:AP/アフロ)

 米国大統領選挙は開票作業の膠着状況が続いた。未曽有の混戦、乱戦となった。

 選挙人獲得数の結果は、306(バイデン)vs.232(トランプ)となった。ジョー・バイデン前副大統領は選挙管理委員会の正式発表がない段階で早々と勝利を宣言し、各国首脳と電話会談を行った。つまり、既成事実をするりと積み上げる作戦に出た。1月20日まではドナルド・トランプが現職大統領なのだから、これは越権行為、僭越である。

 だが、これまでトランプを嫌ってきた欧州の首脳らは意図的に祝意を表明し、他の国々の指導者も競うかのようにバイデンに祝電を送った。「法的な決着がつくまでは祝意を示さない」という頑なな態度を明らかにしたのが、ロペス・オブラドール(メキシコ大統領)、ボルソナロ(ブラジル大統領)とサウジアラビアのサルマン皇太子である。

 北京からは高笑いが聞こえた。しかし、最も高笑いしているのは米国内で「反トランプ」策謀を巧妙に続けてきた「ディープステート」(影の政府)だ。彼らにとって、バイデンは「操り人形」なのだから。

 トランプと親しかったにも関わらず祝意を表明したのが、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相、インドのモディ首相、そしてフィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領らであり、落胆した順番からいえば、トップは台湾の蔡英文総統だった。

 米国のメディアはほとんどがリベラル、民主党支持だから、その書き方は最初からバイデン支持だ。「トランプの逆転は、もはやあり得ない」という一方的な前提に立脚しており、先にバイデン政権を既成事実化するキャンペーンが一斉に行われたのである。

 ホワイトハウスの公式声明(11月12日)では「選挙は不正であり、メディアが彼を助けようと必死である。なぜなら、メディアは真実が白日の下に晒されることを望まないからだ」とした。トランプは自らの勝利を信じて声明を出した。それは「民主党の不正選挙、それを支援する左翼メディア」という総括である。

 共和党の一部には敗戦を認めろとする動きがみられる一方で、「トランプ大統領は2024年に再挑戦する」とミック・マルバニー前首席補佐官代行はメディアのインタビューに答えた。

親中、反ロシア色が濃厚なバイデン外交

 さて、トランプが獲得した票は史上空前の7100万票。これは、バラク・オバマ元大統領の最高時の得票数より多いのである(バイデンは7500万票)。敗因は、激戦州で行われた郵便投票が伏兵となったことだ。どぶ板政治を得意とする民主党は末端の組織が強い。日本でも公明党と共産党の「脚力」を連想するとよい。

 こうなると、しょせんはポピュリズムである。選挙PRの印象作戦でトランプの「指導力」は強引だとねじまげられ、若者に受けることがなく裏目に出た。トランプの負の要素ばかりを誇大に報道したリベラルなメディアが、巧妙に勝った。

 しかし、バイデン政権が誕生しても、民主党の思い通りに政治が実践できるかといえば、外交、軍事、予算を握る上院では共和党が辛うじて多数派を獲得する見通しのため、多くの法案成立は無理であろう。下院でも共和党が票を伸ばし、特に十数名の新人女性議員が誕生した。この議会配分を眺めると、バイデンが思いきり左翼的な政策を展開できる可能性は低い。

 さはさりながら、日本にとっての問題は米中関係がどうなるか、である。

 バイデン外交は親中、反ロシア色が濃厚であり、息子のハンター・バイデンが中国から法外な報酬を得ていたという金銭上の醜聞はリベラルメディアがもみ消した。大筋で米国の対中強硬策は変化がないだろうが、見えないレベル、すなわち貿易制限を静かに解除し、ビザ発給条件の緩和などを行うだろう。

米民主党と中国の“ズブズブ関係”が復活

 そのために、バイデンはパリ協定復帰、WHO(世界保健機関)復帰など民主党の主張に沿った路線に舵を切り替え、エコロジー政治が表面に出る。せっかく立ち上がりかけていたシェールガスの石油産業は暗雲に包まれる。また、バイデンは共和党の選挙基盤である農村部の支持を巻き返すために、中国に穀物輸出拡大を要請し、それを条件に何かの裏取引を行う可能性が高い。

 中国のスパイ排撃も態度が緩くなって、FBI(米連邦捜査局)は内偵を続行するが、中国人スパイを摘発しないのではないか。

 それが米国民主党と中国共産党の暗黙の合意でもあるかのように、バイデンはディープステートの操り人形と化す。まさに、日本の誰かが発言したように「御輿は軽くてバカがいい」のである。

 ともかく、米国民主党と中国のズブズブ癒着関係の復活がすでに見られており、次期政権の人事が取り沙汰されている中、オバマ人脈が政権復活する。

 11月12日に電話で行われた菅義偉首相とバイデンとの日米首脳会談で、バイデン次期大統領が「尖閣諸島を米国は守る」と明言したと日本のメディアはおめでたく騒いだが、これはリップサービスである。

 安倍晋三前首相が靖国神社を参拝したときにケネディ駐日大使が「失望した」と内政干渉的な揚言をしたように、日本のナショナリズムにはトランプより厳しくなることを想定しておくべきだ。かといって、中国を牽制する以上、貿易不均衡是正で、日本にかつてのスーパー301条や年次改革要望書を突きつけてくることはないだろう。

 すでに奥の手はトランプ政権でも実行されており、三菱重工が満を持しての国産ジェット旅客機は不許可となって、過去の1兆円の投資が無駄になりつつある。

 この実態を見ていると、産業界が期待をかけるキオクシア、ルネサスエレクトロニクスなどの半導体の復活は望み薄、むしろバイデンのパリ協定復帰により、公害産業では日本企業に強みがあり、ビジネスチャンスは増える可能性がある。

1年後の「ハリス政権誕生」を目論む極左集団

 米国は分裂しているが、原因はトランプではなく、民主党ならびに左翼メディアの数々の謀(はかりごと)がもたらした。ますます、この傾向が強まるだろう。

 今後、米国内の分裂は深まっていくが、そのエネルギーは民主党にある。主導権争いの原理は多数派の内訌、すなわち内ゲバだから、この党は間違いなく三極化する。バーニー・サンダースらの社会主義、エリザベス・ウォーレンらの過激左翼。そして、バイデンが代弁する保守系の穏健派の三極が、それぞれ派閥争いを演じるだろう。

 それほど民主党内では極左集団の横暴が目立ち、その典型例は「LGBT」に「Q」が加わって「LGBTQ」となったことだ。「Q」は「自分の性的指向や性自認が定まっていない人」を意味する。過去四半世紀、米国に跋扈するのは弱者の論理であり、少数派が大手を振って伝統を否定し、歴史上の英雄たちの銅像を破壊した。したがって、民主党政権の基盤は脆弱この上なく、今後は過激派同士の内ゲバが展開される。

 極左グループの当面の目標は「1年後、ハリス政権誕生」に置かれている。民主党内の極左グループは党内の主導権確保を狙い蠢動を続け、むしろ民主党左派がバイデン弾劾に動く可能性があると、ピーター・ナバロ通商製造政策局長が指摘している。

 カマラ・ハリス次期副大統領は、極左の危険なアジテーターである。にもかかわらず、日本の政財官界の多数がバイデンを歓迎しており、大阪は梅田(バイデン)、沖縄は嘉間良(カマラ)などと喜んでいる。そんな場合だろうか?

宮崎正弘/評論家、ジャーナリスト

宮崎正弘/評論家、ジャーナリスト

 「日本学生新聞」編集長、雑誌「浪曼」企画室長を経て、貿易会社を経営。1983年、『もうひとつの資源戦争』(講談社)で論壇へ。30年以上に亘る緻密な取材で、日本を代表する中国ウォッチャーであり、海外からも注目されている。『中国分裂 七つの理由』(阪急コミュニケーションズ)、『人民元がドルを駆逐する』(ベストセラーズ)、『中国財閥の正体』(扶桑社)、『本当は中国で何が起きているのか』(徳間書店)など著書多数。数冊は中国語にも訳された。また作家として『拉致』『謀略投機』(共に徳間書店)などの国際ミステリーも執筆。。

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