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自ら自爆装置に手をかけた習近平…中国、世界中のドル決済システムから排除の可能性も

文=宮崎正弘/評論家、ジャーナリスト
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米国のドナルド・トランプ大統領(左)と中国の習近平国家主席(右)(写真:AFP/アフロ)

 貿易戦争は話し合いがこじれたまま、ハイテク争奪戦は米商務省がエンティティ・リストに中国企業80社を指名して、ハイテクを絶対に中国には渡さないという阻止線を敷いた。

 そして、中国の在米資産凍結などを含む香港人権・民主主義法(2019年11月27日)、香港制裁法(20年7月14日)、香港特別法改定(同日)が成立。次の金融戦争に米国は準備万端というところだ。

 焦点は香港である。7月1日に中国が「香港国家安全維持法」を施行したため、欧米は総立ちになって中国の人権軽視、報道の自由への抑圧を非難した。香港の事情通によれば、中国工商銀行などの中国系銀行から預金を移し替える香港人富裕層が増える一方で、逆に警官や中国系企業の社員らはHSBCなど外資系銀行口座を中国系の銀行へ移し替えている。

 金持ちの多くはその前に保有マンションを売却し、預金はシンガポールやスイスなどに移管した。政治的保護を求める人たちは台湾へ移住した。英国も香港市民の多くを受け入れるとしている。地震の予兆を感じると鼠が地表に出てくるように、とんでもないことが起きそうと身構えているのだ。

「トランプだから何をやらかすか予測不要だ」と親中派はおびえている。それもこれも、7月14日にドナルド・トランプ大統領が香港自治法(香港制裁法ともいう)に署名し、香港への特別待遇を廃止し、林鄭月娥長官らを制裁するとしたからだ。中国は即座に反応し、海外へ逃れた民主活動家を指名手配し、また米国の5つのNGO団体を制裁リストに加えた。

 次いで、8月10日には事実上の民主化運動の中枢=ジミー・ライ(黎智英)を逮捕した。リンゴ日報本社を手入れ、CEO、CFO、COOら幹部7名も逮捕したので、香港市民は一気にリンゴ日報の倒産を狙う悪質な手入れだとして支援活動を展開した。具体的には同社株への投資、街角で大量購買、そして広告出稿による支援だった。

米国の金融制裁に備える中国

「次は何か?」と庶民が身構えるのは当然だろう。「米国の金融制裁に備えよ。トランプ政権は本気だ」と中国人民銀行顧問、社会科学院シニア・フェローのユー・ヨンディン(余永定)が警告した。

「次の制裁は金融方面であり、銀行取引停止、世界のドル決済機関からの排除、海外資産凍結などのシナリオが用意されている。中国当局は警戒態勢に入るべし」と重大発言である。

 ユーは14年のダボス会議で中国側のパネラーを務めた。中央銀行の顧問として、中国を代表する「世界の顔」のひとりであり、だからこそ発言が注目されるのだ。

 過去の実例がある。12年に、雲南省崑崙銀行がイランへの不正送金がばれて制裁された。海外との取引関係において、中国の海外資産が凍結される可能性がある。

 8月15日から米国ではファーウェイ、テンセントなどが取引停止となった。TikTokとウィーチャットの使用禁止も通達された。すでにインドは、TikTokなど59の中国製アプリを使用禁止としている。米国では200万人以上の在米華人が実害を被るが、マイクロソフトあたりへ売り抜ける公算が高い。トランプ支持のIT企業オラクルも名乗り出た。

 こうした状況を目の当たりにして、「アメリカがどんな手段を講じてくるか、予測不能だ」とユーは続けた。「世界の決済のクリーニングをしている『CHIP』システム、あるいは国際ドル決済システムの『SWIFT』から中国が排除される可能性も否定できないだろう」

 中国人民元は、香港という国際金融都市が機能を失えば、それで一巻の終わりという自覚がある。香港ドルが米ドルとペッグ制を敷いているからこそ、中国は国際取引ができるのであり、為替、ドル建て社債の起債、海外送金、貿易決済などを自由に行えた。その香港に与えてきた貿易と旅行上の特権をトランプ政権は廃止した。同時に「香港特別法」を修正し、香港ドルと米ドルの交換を停止できると条文化した。

 この重大にして深刻な危機を認識できない暗愚の帝王(習近平)は香港弾圧強化に踏み切り、自ら自爆装置に手をかけてしまった。米国を怒らせるようなことばかり繰り返したのである。

香港から北京に飛び火する不満と抗議

 逮捕翌日の8月11日、リンゴ日報の創設者ジミーら民主活動家ら11名は保釈された。「逮捕劇は政治的圧力よ」。保釈されたアグネス・チョウ(周庭)は第一声を記者団にあげた。保釈金は20万香港ドル(およそ300万円)。

「リンゴ日報を支援してくれ。最後まで支援してくれ」。保釈されたジミーは、モンコック警察署前で記者団に大きな声で言った。保釈金50万ドル(保釈金と担保金を含める=邦貨換算で750万円)。いずれもパスポートを押収された。その上、ジミーは個人資産の5000万香港ドルを差し押さえられた。

 逮捕日にリンゴ日報は55万部(通常は8万部)を印刷したが、どの売店でも飛ぶように売れた。香港政庁トップらが市民から敵視されている現実が浮かんだ。

 結局、この逮捕劇は政治的な圧力を示威したわけだが、逮捕理由の「香港安全法」は7月1日から施行されたわけで、逮捕理由は昨年の違法集会だから事後法の適用となり、裁判を維持できないことがわかってすぐに保釈を許可したのかもしれない。

 世界中で巻き起こった不満、抗議の声は、香港政庁を越えて、直接的に中国共産党、習近平個人への批判となった。北京には、確実に世界の声が聞こえたはずである。

 だが、今後懸念されるのは民主陣営の弱体化である。なぜなら、保釈金を含め、長い法廷闘争の費用がかかる。「香港大乱」の逮捕者は9200名。起訴された者が2000名。裁判を維持し、弁護士を雇用し、PR活動を展開していくためにはSNSを利用してのクラウドファンディングがますます必要とされる。

 この動きを阻止するために、中国は米国の上院議員を含めて「フリーダム・ハウス」「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」などNGOの5団体を制裁リストに加えたのだ。

 香港安全法には「外国勢力との結託」は取り締まりの対象になると明示されている。ますます深刻化する香港情勢が、米中激突をさらにエスカレートさせた。「もはや後戻りはできない」とニューヨーク・タイムズが書いた。

(文=宮崎正弘/評論家、ジャーナリスト)

宮崎正弘/評論家、ジャーナリスト

宮崎正弘/評論家、ジャーナリスト

 「日本学生新聞」編集長、雑誌「浪曼」企画室長を経て、貿易会社を経営。1983年、『もうひとつの資源戦争』(講談社)で論壇へ。30年以上に亘る緻密な取材で、日本を代表する中国ウォッチャーであり、海外からも注目されている。『中国分裂 七つの理由』(阪急コミュニケーションズ)、『人民元がドルを駆逐する』(ベストセラーズ)、『中国財閥の正体』(扶桑社)、『本当は中国で何が起きているのか』(徳間書店)など著書多数。数冊は中国語にも訳された。また作家として『拉致』『謀略投機』(共に徳間書店)などの国際ミステリーも執筆。。

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