結局、東京五輪は中止ということなのか――。
朝日新聞デジタルは22日午前8時57分、記事『日本政府、コロナのため五輪中止の必要と非公式に結論=タイムズ紙』を配信した。ソースである英ロンドン・タイムズ紙を翻訳引用し、自社の取材を追加した原稿を配信するのでもなく、「東京発のロイター通信の記事」をそのまま配信するという異例の事態だ。仮に報道内容が事実だとすれば、日本の主要メディアはもれなく“抜かれた”ことになる大失態だ。メディア関係者からは「平河クラブ(自民党本部付記者クラブ)や東京オリンピック・パラリンピック組織委員会に数十人規模で張り付いている全国紙やキー局の記者は何していたのか」といぶかる声もある。
同記事を以下に引用する(冒頭記事リンク参照)。
「[東京 22日 ロイター]-タイムズ紙が与党関係者の話として報じたところによると、日本政府は、新型コロナウイルスのため東京五輪を中止せざるを得ないと非公式に結論付けた。政府は2032年五輪の東京開催獲得に照準を合わせるという」
朝日新聞社内からも困惑の声が
この記事に関し全国紙政治部記者に聞いたが、「そのせいでこっちも忙しい。あとにしてくれて」と取りつくしまもなかった。政治部所属ではない朝日新聞記者も、この報道に困惑している。
「ロイターの配信記事とはいえ、内容が内容だけに平河(記者クラブ)のキャップに確認を取らないでネット(朝日新聞デジタル)に流すとは考えられない。ましてや、元のソースが与党関係者の談話でしょう? 事実だったら大失態の“抜かれ”ですし、『誤報』であれば編集幹部や前線の記者が即時否定し、配信しないような対応が必要になります。つまり『裏が取れないからそのまま流した』ということではないでしょうか。
一般的に、事前に察知しているネタなら、タッチの差で他社や外国メディアに報じられても、配信記事をそのまま自社メディアで流すことはしません。自社で取材した内容を加え独自記事にします。いったい平河と本社は何をやっているんだろうと思いますね」
自民党関係者「水漏れ箇所がどこなのかがわかる」
この報道に関し、自民党衆議院中堅議員秘書は次のように見る。
「一般論ですが、この案件は(五輪組織委会長)森喜朗さん、菅義偉首相、二階俊博党幹事長、そして東京都の小池百合子知事が全員合意しない限り、話は進みませんよ。いずれにせよ政府と組織委が正式発表したものが事実であり、決定です。非公式の決定とはなんですか?
この情勢下だから、さすがに首相官邸も党本部も、中止も含めていろいろな選択肢を検討しているんじゃないですか。真偽がどうあれ、この手の怪情報は『党内の水漏れ箇所がどこなのか』を探る意味で時折流れます。情報を流していた人物と、流していなかった人物なんてすぐにわかりますからね」
委縮し続ける日本メディア
だが、こうした自民党関係者や政府の姿勢を懸念する声もある。在京キー局社会部記者は次のように語る。
「五輪案件は特ダネと誤報の境界線があいまいで、すぐにインターネット上で炎上します。だから、どこの社の政治担当も疲れきっています。電通さん案件ということで、会社としても神経質になっていますしね。今回のタイムズ紙の件でも、各社の記者は『事実だったら会見するし、間違っていたら政府や組織委が否定コメント出すからいいや』という感じだと思いますよ。
20年前の自民党は、自分たちにとって都合の悪い水面下の話が正式発表前に漏れて、記者に突っ込まれた時、『ノーとは言えない』(編集部注:つまりイエス)などと苦しそうな顔で潔く認めたものです。
ところが、東京五輪は『水面下の協議』は存在していないことになっているのです。実際はいろいろな協議が行われているのに、政府や組織委は『そんな話はない』と否定を続けます。そして、最後に『あの時はまだ何も決まっていなかった。今回初めて正式発表をする、これが真実だ』と手のひら返しをするのです。
水面下で誰が、どのように主張し、どんな議論を経て決定をしたのかを明らかにするのがジャーナリズムです。公式見解という『結果』からだけでは、その問題の責任の所在が明らかにならないからです。真偽はどうあれ英タイムズ紙の今回の報道で、委縮してしまっている日本メディアのあり方を改めて考えさせられました」