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永濱利廣「“バイアスを排除した”経済の見方」

2021年、「失われた40年」の分水嶺…ワクチン浸透・五輪開催なら経済正常化の可能性

文=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト
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「Getty Images」より

100年に一度の危機を経験した世界経済

 2020年の世界経済は新型コロナウイルス感染拡大により大きく落ち込んだ。特に米国は、手厚い経済対策の影響などがあったものの、失業率が15%に近づく水準まで上昇した。

 一方、株価はコロナショック直後には大きく水準を下げたものの、各国の異次元の金融・財政政策に加えて、ワクチン浸透後の世界経済の回復を先取りする形で、コロナショック以前の株価を上回る水準まで上昇した。

 こうしたなか、2020年の日本経済を一言で表現すると、四重苦だったといえよう。(1)米中摩擦の影響ですでに2018年11月から景気後退局面だったところに、(2)2019年10月に消費増税を強行したことで悪循環をさらに加速させ、(3)そこにコロナショックが追い打ちをかけ、(4)数少ない期待だった東京五輪が延期となった散々な年だった。

 ただ、政府・日銀の協調した金融・財政政策や海外経済の持ち直し、ワクチンの開発期待などにより、日経平均株価は29年ぶりの水準まで上昇した。こうしたなか、日本経済の下支え要因となったのが、コロナショックに伴う原油価格の下落である。エネルギーコストが軽減したことにより、所得の海外流出を抑制する要因となった。

東京五輪開催とワクチンで個人消費活性化

 2021年の景気を占う上では、ワクチンの浸透が大きなカギを握るだろう。特に、移動や接触を伴うビジネスにおける需要効果は大きいと思われる。なぜなら、コロナショックの影響で日本のサービス消費とインバウンド消費を含むサービス輸出は、2020年上期だけで前年からそれぞれ8.1兆円、2.5兆円減っているからである。

 2020年の訪日外客数は新型コロナウイルスの世界的まん延による悪影響などもあり、2019年の3188万人から400万人前後に激減しそうだ。ただ仮に2021年に完全な形ではなくとも東京五輪が開催されたりワクチンが浸透したりすれば、コロナ前の水準には戻らなくとも、半年間で10兆円以上落ち込んだ国内のサービス関連消費の大幅な回復が期待できそうだ。

 特に、東京五輪が開催されれば、観戦のための国内旅行やテレビなどの特需が発生することが予想され、GoToキャンペーンもGW前後まで延長されれば、年前半に駆け込み需要が発生することが予想される。

 特にテレビに関しては、2011年7月の地デジ化に向けて多くの世帯で買い替えが進んでから、買い替えサイクルの10年以上が経つため、買い替え需要はかなりあることが期待される。なお、政府の目標通りに2021年前半中に全国民分のワクチンを確保し、順調に接種できれば、年後半にかけて国内サービス関連消費が正常化に向かう可能性があるだろう。

リスクは政治と金融市場

 一方で、経済が正常化に向かえば、コロナショックで大幅に拡大した金融・財政政策にも正常化圧力がかかる可能性がある。しかし、そもそもコロナショック以前でも日本経済は正常化していなかった。このため、経済が正常化する前に金融・財政政策が拙速に手仕舞われることにより、経済が正常化に向かうチャンスを逸すれば、日本経済が失われた40年に突入するリスクもあろう。

 また、菅義偉首相が自民党総裁として在任できる最長期限は2021年9月末だが、その翌月10月21日が衆議院議員任期満了となることからすれば、自民党総裁選前の2021年中に解散総選挙を行う可能性もあろう。

 このため、構造改革や解散総選挙の状況次第で菅政権の政権基盤の揺らぎが生じることになれば、マーケット環境の悪化を通じて日本経済に悪影響を及ぼすリスクもあろう。日本株の売買は6割以上が外国人投資家であり、菅政権の政権基盤が盤石なほど、外国人投資家が日本株を保有しやすくなり、基盤が揺らぐほど手放されやすくなる。そうなれば日本経済も困難を強いられることになるだろう。

 また、新たに米国大統領に就任する可能性が高いバイデン政権の政策運営もリスクだろう。バイデン氏はトランプ氏の通商政策をかなり批判してきたため、通商政策の不透明感が少し和らぐ可能性がある。しかし、米民主党政権は民主主義や人権を非常に尊重しているため、人権問題や安全保障に関して強気な対応をしてくれば、米国経済に悪影響が及ぶ可能性もあろう。さらに、金融市場のバブルもリスクである。特に、世界の政府・中央銀行は世界恐慌以来の危機とされるコロナショックの状況にあるため、異次元の金融・財政政策に動いている。しかし、ワクチンの普及などにより経済が正常化に向かう期待が高まり、世界の政府・中央銀行が金融・財政政策の拙速な出口に向かうようなことになれば、2013年のバーナンキショックのように、金融市場が大きく混乱することになり、日本経済への悪影響も無視できないことになろう。

(文=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト)

永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト

永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト

1995年早稲田大学理工学部工業経営学科卒。2005年東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。1995年第一生命保険入社。98年日本経済研究センター出向。2000年4月第一生命経済研究所経済調査部。16年4月より現職。総務省消費統計研究会委員、景気循環学会理事、跡見学園女子大学非常勤講師、国際公認投資アナリスト(CIIA)、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)、あしぎん総合研究所客員研究員、あしかが輝き大使、佐野ふるさと特使、NPO法人ふるさとテレビ顧問。
第一生命経済研究所の公式サイトより

Twitter:@zubizac

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