北朝鮮の核実験を受けて、国際連合の安全保障理事会は原油や石油精製品の輸出を制限する制裁決議を採択した。北朝鮮への石油供給が規制されるのは初めてで、これによって石油輸出の3割削減を目指すという。また、北朝鮮の繊維製品輸出も禁止され、北朝鮮の輸出の9割が制裁対象となる見込みだ。
一方で、制裁強化に反発する北朝鮮は「米国に最大の苦痛を与える」という発言後、9月15日には再び日本上空を通過する弾道ミサイルを発射した。混迷する北朝鮮問題は、どこに向かおうとしているのか。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長の高英起氏に話を聞いた。
在日コリアンの高氏は中国の延辺大学に留学した経験を持ち、脱北者の現状や北朝鮮の内部情報を発信したことが当局の逆鱗に触れ、北朝鮮から二度の指名手配を受けたこともあるという。また、『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』(新潮社)や『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)などの著作を持つ。
「北朝鮮の核放棄はあり得ない」
――国際社会の制止を振り切って弾道ミサイル発射や核実験を強行する金正恩朝鮮労働党委員長は、いったい何を狙っているのでしょうか。
高英起氏(以下、高) 金正恩の行動原理は、考えようによってはシンプルです。金正恩を頂点に、その親族を中心とする体制の安定に尽きます。
もちろん、実は北朝鮮内にもいろいろな意見があり、決して一枚岩ではありません。しかし現在、金正恩体制はしっかりと確立しています。問題は、これがいつどうなるか。10年後、20年後はわからないわけです。
金正恩本人も、体制の維持については危機感を持っています。そこで核武装を行うことで、アメリカなどの外敵から脅かされることはなくなります。実際、アメリカは核を保有した北朝鮮を攻撃することはできません。第2次世界大戦で日本の広島と長崎に原爆が投下されて以来、核兵器が戦争で使われたことは一度もありません。また、パキスタンは事実上の核保有国として認められていますが、どの国からも攻撃されていません。
4月に「アメリカが北朝鮮に先制攻撃を仕掛けるのではないか」という観測が流れましたが、実際にはありませんでした。事実上の核保有国になった今、北朝鮮は「外敵に脅かされることなく国内政治に専念できる環境が整い、金正恩を頂点とした体制を維持できる」と考えています。
金正日政権では、場合によっては核放棄も検討する代わりに見返りを要求するという動きがありました。あくまで対外的な交渉カードであるため、核実験を行うことはあまりありませんでした。しかし、この2年間は核実験を繰り返しており、核とミサイルの精度を上げています。これからも、金正恩体制を維持するために核・ミサイル開発は続けられるでしょう。
――「北朝鮮が核放棄する」というシナリオはあり得ますか。
高 核開発を行うことは朝鮮労働党の決定事項ですから、核を放棄することはあり得ません。国際社会では、経済援助やエネルギー供給などと引き換えに核放棄を期待する声もあるかもしれませんが、金正恩体制ではそのシナリオはないでしょう。